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すごくすごく好きなのに
こんなにめちゃくちゃにしたくなっちゃうんだろう



サイトUPするとのちのち面倒なことになるので
ブログUPですが月蝕最新話です 追記からどうぞ




「……本当に。昔から、お前はそういう奴だよ」
 呟いて酒屋の前から退こうとしたグレンは、しかし北の方を見やって突然足を止めた。
 人波に紛れたはずのトウヤの姿が戻ってくる。賑やかな流れを無理に押しのけるようにして駆け寄ってきたトウヤは、何やら必死の形相で手を伸ばすと、そのまま男の胸倉を再び掴みあげた。
「うぐ」
 そしてぐっと詰め寄ってくるトウヤの睨みつけるような視線を浴びて、グレンは押し黙ってしまった。ハリがちっこい丸サボテンだった頃からトウヤといえば大方穏和な性分で、一日に二回も掴みかかってくるような彼をグレンは知らない。相手が大人しいのをいいことに、トウヤはそいつの体を、先刻と同じように酒場の壁にどすんと押しつけた。行き交う人の不可解な視線が突き刺さる。何やら気まずい沈黙の中、ガラス越しに、ビーダルの円らな瞳が二人を眺めている。
「……グレン、僕と……」
 決死の覚悟で、と言った様子で声を発したトウヤに、グレンは柄にもなく戸惑う以外の術を講じなかった。
 相当慌てて走り戻って来たのか随分と息の荒いトウヤは、そこからしばらく目の前の男から視線を逸らした。何かぶつぶつと呟きながら足元を中心に焦点を泳がせ、ぱっと顔を上げたかと思うと急にグレンの顔の横へ右拳を打ちつけた。がつんと。鈍い音の後にグレンが感じたのは、見知った相手の豹変する底知れぬ恐怖――息切れしていたかと思えば今度は顔面蒼白で、トウヤは震える声で言い放つ。
「……僕と、契約して」
「ちょっと待て」
 グレンはその言葉の続きを知っている。右拳をあしらおうとしたが決意の固さからかその手は動かず、
「ま、魔法少女……まほ……う、しょう、じょ……に……」
 そう繋いでから、トウヤは今一度、舐めるように――並より大きな足、汚れたつなぎに隠された屈強な下半身、分厚い胸板、広い肩幅、隆々とした上腕、筋だった首、ざらざらした顎、枯れた唇、砂漠化の進む頬、目、眉毛、茶色ががったばさばさの短髪――目の前の男を観察してから、突然手を離し、よろよろとその大男から離れた。
「……やっぱり僕には無理だ」
「何が」
 ひとりごつ彼の真相を窺おうと顔を覗き込んだグレンに、トウヤは困ったような笑みだけ向けた。
 そうして駆け足で人混みの方へ消えていった彼に、男は片手を上げることも、ひとつぽつりと呟くことも、酒場の前を後にすることもできず、ただ茫然といつまでもそこに突っ立っていた。



「――おい、ありゃあ」
 タケヒロが呟いて、毒に弱り切ったニドランを抱きしめたままのミソラも元の方向へと振り返った。
 仰ぎ見る、町と向かいの方角から、無数の羽音がうねりとなって近づいてくる。
 二人は目を凝らした。星の数の影がだんだんと近付いて輪郭を描いていく中で、タケヒロはなんだアレ、と眉をしかめ、ミソラはぎゅっとニドランをきつく抱きしめた。その頬は今日一番の強張りを見せている。
「……さ、さ、さ……」
「なんだ知ってんのか」
 タケヒロの言葉にミソラは黙って頷いた。見開かれた双眸に映る影の形が、はっきりと全貌を現している。空を飛んではいるが人の形をしている。幼児体型の手と足、揺れる尻尾とふさふさした胸毛は可愛らしい。だがしかし、その見るからにおぞましいのは、大きな頭の形であった。
 ――パー。それは明らかに、巷で行われる一般的なじゃんけんの、パーの形を模している。
「……さ、ささささささよなライオンの群れ……!」
 尋常でない怯え方をしているミソラに、悠然と腕を組んでそれを見ながらタケヒロは言う。
「さよなライオン? ポケモンにしちゃ長い名前だな」
「逃げて!」
 どこからか聞こえた声に二人は忙しく振り向いた。枯れ色の草むらを韋駄天走りでやってきたのは、首にチリーンを巻きつけた女レンジャーであった。
「誰ですか」
「誰だよ」
「早く逃げなさいって言ってるの! これだけの数の、さよなライオンが揃ってしまうと……!」
「まーほーうーのーこーとーばーで?」
 タケヒロが何気なく歌ったフレーズが、ミソラとレンジャーを凍りつかせる。
 ――その時、三人と四匹の体を、突風と閃光が叩きつけた。
 てーんてーんてーんてーんってれれれーん!
 トランスフォーマーを思わせるBGMと共に、無数のさよなライオンが一挙に集結し一匹の大きなさよなライオンを形作ったかと思えば、ぱっと飛び上がった次の瞬間には、強烈な光を纏って超時空変形を始めたのである。
 てれれてーんてーんてーんてーん! てっててーんてんてっててーん!
 ガシィン! ガシィン! と頭部等々を回転させながら姿を変えていくさよなライオンを前に、彼らどころか、何事かと集まってきた野良ポケモンたちまで成す術なく見守ることを強いられていた。額に現れた緑の六角水晶が輝かしいばかりのオーラを放つ。エーシー! 打ち合わせたような野良ポケモンたちの合唱が、そんな風に聞こえた。
 ジャキイィン、と派手にポーズを決めて草原に降り立った巨大ロボットの姿にただ震えあがる一行の中で、レンジャーは下唇を噛みしめた。
「……攻強皇國機甲キングさよなライオン……!」
 首元で晴れやかな笑顔を浮かべていたチリーンを片手で掴むと、レンジャーは素早く振りかぶった。
 青空を背景に長い尻尾をたなびかせ、チリーンが風の激流を巻き起こしながらすっ飛んで行く。キングさよなライオンはそれを易々と片手でいなした。
 チリィィーン! 軽やかな音と激しい砂埃を巻き上げながらチリーンが大地に激突する。レンジャーはひとつ舌打ちした。依然難しい顔でタケヒロは首を傾げているが、その両肩に止まっているポッポたちは完全に戦意を失っており、がたがたと震えるミソラの抱くニドランは満身創痍でバトルどころではない。ここは、名前だけレンジャーなのに何一つレンジャーらしい仕事をしていない私の出番……! レンジャーは右腕を構えた。そこにはあまり使い込まれていない様子の赤いキャプチャ・スタイラーがはめられている。
 ――聞きなれた声が叫んで聞こえたのは。まさにその時であった。
「僕とぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
 なんだなんだと振り向いた三人の視界の中で、超速オニドリルに跨った男、左手を包帯で覆い隠して頬に痣のある紺色のマフラーのは、
「契約してえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
 腰のトレーナーベルトの手前から一つ目、細かな傷の入った年季モノのモンスターボールを右手に取り、
「魔法少女にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」
 ノクタスのハリが入ったボールを、目前にどんと立つキングさよなライオンに向かって投げつけ、そこから眩い光を放って飛び出したのは、枯れ草色の人のような植物のような――ではなく、
 たーんたーん! たーんたん! てってけてん!
「あれは、攻強皇國機甲グレートありがとウサギ!」
「また長い名前のポケモンだな」
 冠を模した頭部と真っ白なボディの機動戦士がずしんと降り立つと、再び野良ポケモンの中からエーシー! の声が上がった。
 ココウ北部、延々の広がる草原の中に立つ二つの巨大ロボットの脇、立ち尽くす彼らの後ろに、オニドリルごとひらりとトウヤが降り立った。トウヤはすぐさまミソラの肩を掴んだ。ミソラはその切迫した表情を見て、あぁそうか、何か適当だなと思ったらだんだんいろいろ描写するのめんどくさくなってきたんだな、と考えて、その考えがどこから来たのか全く分からず恐怖を覚えた。
「なってよ」
「私は男です」


 こだまでしょうか
 いいえ なんかもう もうどうでもいいや……すいませんでした……

 

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