Always Look on the Bright Side of Life
「河合くんだったら、どうするの?」
そう尋ねて見つめてくる彼女の瞳の中で、獣避けの炎がゆらりと揺れる。
幻想的だ。河合啓志(けいし)は彼女のこととなると、いつもどぎまぎする。彼女はミステリアスだ。しかもクールで、他人を簡単に近づけない高貴なオーラがある。それなのに彼女が見せる表情の中に、下手に触れれば壊れてしまいそうな、脆く儚い、不安定な少女のようなそれがあることに気付いた。それはごく最近のことだった。『あっち(もはや、リアルな風景になりかけているこっちの世界に対する)』にいて、キャンバスで遠くから眺めていた大人びた様子からは、ずいぶんかけ離れた顔。それが日常から離れてしまった今によって生み出されたものなのか、また親しい間柄の相手にだけ見せる油断の表情なのかは、よく分からない。だからどぎまぎするのだけど。
隣では、同じく火の当番である海治(かいじ)が、大きなあくびをしてから、眠気を払おうとぷるぷる首を振った。
「えっと、その、俺はそうだなあ…」
闇夜だった。彼女の透き通った色の頬は、炎の赤だけをほのかに写している。背徳的な感情が頭を駆け巡りそうになるたびに、啓志は彼女の言葉を脳内再生することに必死になった。
『河合くんだったら、どうするの?』
何が?
『どうしても眠れなくて』
ああそれだ。そのあの、啓志は適当な言葉を紡ぎ続けて、本当に必死の思いで、ベストアンサーを模索する。沈黙が苦手だ。今それ以上に嫌なのは、彼女を失望させることだ。ズボンで拭った手汗は、焚き火が暑くてしみだしたのではない。
「本とか読むかなあ」
「あぁ、私も読むわ。でも逆に興奮して寝付けなくなるのよね」
「でも今本なんてないよね、はは。ごめん参考にならなくて」
「ねえ、他には?」
他?
寡黙な海治がまどろんだ顔で啓志を見上げる。すぐ傍にいる彼には、啓志の焦りが色鮮やかに見えているのかもしれない。
「えっ、と…テレビを見る」
「あはは、寝るの諦めてる、それ」
「あったかい何かを…ないや。ない、えっと、そうだな」
「ふふ」
彼女は妖艶な、しかし優しげな微笑みを浮かべて、言った。
「ごめん、なんか考えさせちゃって」
「いや、俺、実はあんましそういう体験が…」
その麗しい笑みにどきりとする。高鳴る鼓動と一人ではりつめる緊張は、全て海治に伝わっているに違いない。啓志は心の中で、だめさ加減に、深い長いため息をつく。
「男の人って、そうなのかな」
「うーん…どうだろう。聞いたことないなあ…海治は?」
う? 瞼を擦っている少年は驚いた顔を見せたけど、その後首を横に振った。
「あー…なんかもう、寝れないときは、とりあえず横になろうかなって…そしたら気付いたら朝になるっていうか」
「そっか」
「横になって目をつぶってるだけで、疲れは取れるらしいね」
「そうなんだ…じゃあ、横になっとこうかな。明日も歩くし」
「うん、えっと…おやすみ、佐奈ちゃん」
「おやすみなさい。河合くん、海治くん」
「お…おやすみ、なさい」
二人とはずいぶん離れた場所に横になった彼女が一言、ありがと、と呟いてから、啓志は幸せそうに顔を綻ばせていた。
*
すいむも寝れません。
そう尋ねて見つめてくる彼女の瞳の中で、獣避けの炎がゆらりと揺れる。
幻想的だ。河合啓志(けいし)は彼女のこととなると、いつもどぎまぎする。彼女はミステリアスだ。しかもクールで、他人を簡単に近づけない高貴なオーラがある。それなのに彼女が見せる表情の中に、下手に触れれば壊れてしまいそうな、脆く儚い、不安定な少女のようなそれがあることに気付いた。それはごく最近のことだった。『あっち(もはや、リアルな風景になりかけているこっちの世界に対する)』にいて、キャンバスで遠くから眺めていた大人びた様子からは、ずいぶんかけ離れた顔。それが日常から離れてしまった今によって生み出されたものなのか、また親しい間柄の相手にだけ見せる油断の表情なのかは、よく分からない。だからどぎまぎするのだけど。
隣では、同じく火の当番である海治(かいじ)が、大きなあくびをしてから、眠気を払おうとぷるぷる首を振った。
「えっと、その、俺はそうだなあ…」
闇夜だった。彼女の透き通った色の頬は、炎の赤だけをほのかに写している。背徳的な感情が頭を駆け巡りそうになるたびに、啓志は彼女の言葉を脳内再生することに必死になった。
『河合くんだったら、どうするの?』
何が?
『どうしても眠れなくて』
ああそれだ。そのあの、啓志は適当な言葉を紡ぎ続けて、本当に必死の思いで、ベストアンサーを模索する。沈黙が苦手だ。今それ以上に嫌なのは、彼女を失望させることだ。ズボンで拭った手汗は、焚き火が暑くてしみだしたのではない。
「本とか読むかなあ」
「あぁ、私も読むわ。でも逆に興奮して寝付けなくなるのよね」
「でも今本なんてないよね、はは。ごめん参考にならなくて」
「ねえ、他には?」
他?
寡黙な海治がまどろんだ顔で啓志を見上げる。すぐ傍にいる彼には、啓志の焦りが色鮮やかに見えているのかもしれない。
「えっ、と…テレビを見る」
「あはは、寝るの諦めてる、それ」
「あったかい何かを…ないや。ない、えっと、そうだな」
「ふふ」
彼女は妖艶な、しかし優しげな微笑みを浮かべて、言った。
「ごめん、なんか考えさせちゃって」
「いや、俺、実はあんましそういう体験が…」
その麗しい笑みにどきりとする。高鳴る鼓動と一人ではりつめる緊張は、全て海治に伝わっているに違いない。啓志は心の中で、だめさ加減に、深い長いため息をつく。
「男の人って、そうなのかな」
「うーん…どうだろう。聞いたことないなあ…海治は?」
う? 瞼を擦っている少年は驚いた顔を見せたけど、その後首を横に振った。
「あー…なんかもう、寝れないときは、とりあえず横になろうかなって…そしたら気付いたら朝になるっていうか」
「そっか」
「横になって目をつぶってるだけで、疲れは取れるらしいね」
「そうなんだ…じゃあ、横になっとこうかな。明日も歩くし」
「うん、えっと…おやすみ、佐奈ちゃん」
「おやすみなさい。河合くん、海治くん」
「お…おやすみ、なさい」
二人とはずいぶん離れた場所に横になった彼女が一言、ありがと、と呟いてから、啓志は幸せそうに顔を綻ばせていた。
*
すいむも寝れません。
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