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Always Look on the Bright Side of Life
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◆母の日短編!(まったく間に合ってない)
◆げっしょく番外!
◆時事系列とか気にしてはいけない
◆季節イベント短編なのに糞真面目
◆これは……五章のとうやだ……!!
◆ついきから~!





「――母の日?」
 す、と冷めた目で一瞥だけくれた師匠は、また本の方へと向き直ってしまった。
「それがどうかしたのか」
 えっと、とミソラは両拳を軽く握りながら、ちらりと後ろを振り返る。彼へと頑なに寄りたがらない友人は、くりっとしたまん丸い目を、ヴェルの体の向こう側から覗かせていた。
「あの、ええと、母……お母さんに……何かする日だと、聞いたので、タケヒロが」
 もう一度向き直る。がらんどうの酒場のカウンターまで流れ込んでいる蜜色の陽が、見向きもしないその横顔を、やや物憂げに映している。
「何かしようかと……」
「……誰に?」
「おばさんに」
 おばさんが外出中であることは把握済みだ。ぱたんと本を開いたまま置いて、トウヤはまたこちらに視線を寄こした。前面に推したい鬱陶しさと、その背後にちらついている、浅からぬ困惑。
「……いいんじゃないか?」
「私にとっては、おばさんが、あの、お母さんのような、ものかと思って、あの」
「うん、だから、わざわざ僕に報告しなくても……、あぁ」
 金か、と彼は真顔で問うた。
 想定外の返答に、ミソラはこちっと固まってしまう。薄ら闇と、斜陽の明るみの境目を、二人の間を、さわさわと埃は横切っていく。トウヤはふいっと目を逸らすと、本を持ち上げて、小難しい文字の行列をまたぼんやりと追いかけはじめた。
「財布を持っていきなさい。入ってる分なら、好きなだけ使っていい」
「え、あの、そうじゃなくて」
 正直、ここまで、冷た――いや、そっけないとは、思っていなかった。助けを求めるようにまたミソラは振り返った。グーを軽く押し出す仕草で、ぶすっとしたままタケヒロは後押ししてくる。
 暫く無言の時が流れた。そこにあるのが静物であるかのようにトウヤは興味を示さなくなったが、本に没頭しているという風ではまるでなくて、その証拠に視線はその紙のずっと奥の方を突き刺しているみたいに虚ろだったし、いつまでたってもページを捲る気配もないし。ぐわぁ、と低い欠伸の響きがヴェルの腹から発せられて、ひぇっ、とタケヒロが飛びのいた。それからはまた、静かになる。
「……あ、あの」
「何だ」
「……お師匠様は、どうするんですか?」
 ちいさくちいさく言った。
 唇は閉じたまま、視点はどこかにくっついたまま、トウヤはゆっくり瞬きする。間違えた、とすぐさま思った。彼がため息をつく前に、矢継ぎ早にミソラは叫んだ。
「『手作り感』が重要だって!」
 ぴんっ、とヴェルのうなじの毛が立って、タケヒロはもう一度慄いた。
 同じペースで進んでいた埃の行進が、その瞬間、わっと乱れる。また線を結んでくれたその目が、わずかに色を取り戻していた。胸の縮こまりそうな妙な緊張感が、するするほどけていくのを感じる。
「……い、い、言ってました……」
「……そうか……」
「はい……」
「……誰が?」
「レンジャーさんです」
「レンジャー? あいつも『人の子』だったか」
 多分あの言葉は、「何かプレゼントしたいのにお金がないんです」と愚痴を零した子供に向けての彼女なりのフォローだったのだろうが、それでこの人から苦笑を取れたのだから嘘だろうと問題ない。
「もう夕方になっちゃいましたし、日が暮れる前に作ろうと思うと、お師匠様の力が必要です、なので手伝ってください」
「計画性がなさすぎる。勝手な奴だな」
 僕は店番してるんだぞ、と師匠は笑った。
「で、何を」
「はい」
「何を作るんだ」
 ミソラは押し黙る。
 再びの沈黙。どうどう、と涼やかな顔をしているヴェルを宥める真似っこをしながら、タケヒロがそろそろと離れていく。
「……それも決めてなかったのか」
「は、はい……」
「もう夕方だぞ。何か買ってきた方が早い」
「でもっ、う、うーん……例えば、何がいいんですかね」
「え」
「母の日の贈り物って」
「何って……」
「私もタケヒロも経験がないので」
「レンジャーは?」
「教えてくれなかったです」
「……」
「お師匠様は……?」
 師匠は黙って首を振った。
 やっぱりな、という感じ。代わりのように後ろでタケヒロがため息をついた。さすがに最初から頼りにはしていなかったが、レンジャーが固く口を閉ざしたとなれば、ココウに来てからでなくても、幼少の頃とか、何かあってもおかしくなかったし。頼みの綱が切れたので、ミソラもちょっと肩を落とした。
「どういうものを送るのでしょうか、普通は」
「そういうの詳しいんじゃないのかお前」
 師匠が視線をやると、タケヒロは反射的に臨戦態勢を取った。
「知るか、自分で考えろ、バーカ」
「お師匠様そういう話聞いたこととかないんですか、人からとか」
「そういう風習に則ってるような知り合いあんまりいないんだ」
 別に普通とか、習慣とかに拘らなくてもいいんじゃないか、と独り言のように呟く低い声が、彼が天井を仰ぐのと一緒にすうっと昇っていく。それもそうだな、とミソラも少し力を抜いた。だとすれば。
「おばさんの好きなもの、とか」
「好きなもの、ですか……」
「おばちゃんの好きなものってなんだ?」
 横槍を入れた瞬間、ぶふっ、と背後でヴェルが鼻息を鳴らして、少年はぴゃっと控えめに飛びあがった。
 好きなもの。そういえばよく知らないよなぁ、と思い起こしてみても。浮かんでくるのはご飯作ってる姿とか、洗濯干してる姿、お菓子焼いてる姿とか、嬉しげに買い物の紙袋抱えて戻ってくる姿だとか、あとは……
「……贈り物って言ったら、花だけどなぁ。俺はな。あ、別に姉ちゃん限定って訳じゃねぇぞ」
「――あっ、」
 ぱっと顔を向けると、全く同じタイミングで、トウヤもこちらと目を合わせた。
「『花』――!」



「――『手作り感』、ですよ」
 買えばいいじゃないか、まだ花屋も開いてるだろうし、とぼやく師匠にそう言い返して、ミソラはしゃがみ込んだ。
 夕日は完全になりをひそめて、だんだん夜を増していく紺碧のささやかな名残り光の中で、薄らぐ己の影に包まれる生命の方へ手を伸ばす。瓦礫の中に押し込まれるように咲いていた星屑を散らしたような小さな花弁の集まった花、そのほそっこい茎へ爪を立てて、ぷちっともぎ取った。手中に揺れる名も知らぬ花。それを集めて、花束にした完成形を想像して、ミソラはにんまりした。
 こんなところがあったんだな、という低い声に、ちょっと得意そうに鼻を鳴らすタケヒロ。いつもレンジャーへの手土産探しを欠かさないタケヒロだから知っている、砂漠色の町の、密やかな採集スポット。その場所を惜しげもなく披露してくれた友人に感謝の気持ちでいっぱいだ。外の草原のようでは全くないが、にょきにょきと細長く顔を伸ばす逞しい植物の生きる瓦礫山の秘境には、暮れなずみの中にもぱっと目を引く花弁を風に揺らしている。
「お師匠様もほら、早くしないと真っ暗になっちゃいます」
「手伝うなんて言ってない」
「言いましたよ」
 人語も喋れないハリを店番に残してのこのこついてきた人の台詞じゃない。それを言おうとした矢先に、向こうの方で渋々とその人も長い体躯を屈めたから、ミソラは口を噤んだ。その様子を腕を組んで眺めていたタケヒロは、ふいっと踵を返す。
「じゃ、俺帰るぞ」
「え、帰っちゃうの?」
「何で俺が親絡みのイベントに付き合わなくちゃいけねぇんだよ」
 それもそうだ。……文句を言いながらも、一日ミソラの『うじうじ』に付き合ってくれた友人に、ありがとう、また明日ね、といつもの口上を付け加えて。ぱっと右手だけ上げると、その後は気恥ずかしげに猛スピードで逃げていったその背中を眺めて、黙ってそれを見守っていた人と顔を合わせて、少し笑った。
 瓦礫を慎重に踏み崩しながら、奥の方へと移動していく。ポケモンが飛び出してこないか少し心配だが、それにつけては勘の良い彼の様子を見てもそういう雰囲気には見えないので、ずるずると降りる。そこにすっくと立っていた主張の強い赤色の花を、ごめんね、と心の中で唱えながら、摘み取った。
 鳥の鳴き声が聞こえてくる。どこかで、何かの遠吠えも。背中の方でもじゃりっと足音が響いた。思ったより真面目に作業しているのかも。……肩越しに仰げば、トウヤはすっかり腰を下ろして、右手に携えた小さな花をふらふら揺らして弄んでいた。
「お師匠様」
 呼べば、視線を上げて、やれやれと言ったように立ち上がる。
「面倒だ」
「そう言わずに」
「よくやるよ、お前」
 ぼそっと言う。……母の日だからおばさんに何か、と言い出した時に、ミソラ一人だけ何かしたらあの人の立場がない、と笑ったのはレンジャーだった。単にものぐさなのか、十年以上ずっと照れくささに逃げ惑っていたのか。そもそも、彼にとって、おばさんというのは、なんなのだろう。
「お師匠様は」
「ん」
「おばさんのこと、お母さんって呼ぼうと思ったこと、ありましたか?」
 手近の雑草を摘みながら、横目で様子を窺う。――一瞬手は止めたけれど、彼の返事は早かった。
「ないよ。一度もない」
「そうですか」
 強調して否定した彼の真意を探るまでもなく、狼狽えるように、言葉は続いた。
「……お前の言うように、母親みたいなもの、なのかも、しれない。いや、そうだとは思ってる。面倒を見てくれて……感謝はしてるんだ。凄く……でも……」
 見られていることに気付いたのだろうか、顔を上げた彼と視線を交わらせると、ふ、と彼は苦笑した。
「……母親は一人だけだ。ずっと」
 顔を背け、立ち上がる。薄い影は深みを増していく夜へ溶け込んでいくようだった。だんだんと視界がふやけて、手元が覚束なくなる。懐中電灯でも持ってくればよかったか、そこまで帰らなければ心配をかけてしまうけれど。
「母の日って言うのもさ」
「はい」
「母……って言うのも、おこがましくて、毎年気にしてはいて、何かやったら喜んでくれるんだろうけれど、こう……なにか、図々しくないか、って、いつも、――」
 左手で頭を掻くと、もう殆んど夜に埋め尽くされた空を見上げた。
「……めんどくさいだろ、僕」
「はい、すごく」
 即答しても、振り向いて少し肩を竦めるだけだった。
 帰ろう、と言われて立ち上がる。がらがらと崩れ落ちそうな瓦礫を踏みしめて、下手すればひっくり返ってしまいそうだ。右手の熱の中に、なけなしの雑草を握りしめて。それでもミソラは得意だった。
 言っている事は理解できる、けれど全然分からなかった。――それは、自分が自分の本当の親のことを、覚えていない、からなんだろうか。
 追いかけて、横に追いついて、見上げる。彼の集めた花も一緒にして、おばさんに手渡すイメージを膨らませながら、それらのレイアウトを、あれこれと微妙に弄ってみる。
「私、お母さん、って呼んでみようかと、ちょっと思ってたんですけど」
 トウヤは驚いて視線を下した。ミソラはにしっと笑った。
「でも、やめますね」
「……どうして?」
 あなたを差し置いてそういうことは、とてもじゃないけどできないから。
 ミソラは言わなかった。言わなかったけれど、秘密事を共有したみたいで、なんとなく嬉しい気持ちになって、戻ってきた大通りの不規則な石畳の堅さの上を、軽やかな足取りで駆けていった。






**********
即席感まるだしでイベントもの短編特有の推敲してないやつです
かんぜんに時間おーばーというかこの時点でこれを書いてよかったのかっていう迷いはここ書いている今でもありますまぁ載せちゃったものは仕方ないだろ(きぱっ
なぜイベント短編をまじめにかいたのだ最初はぐれんさんが色々やらかす小説にしようとおもってたのに!
正直自分でも書きながらよく分からなかったので明日の朝になったらもんどりうって全消しするんじゃないかとおもいます
父の日たのしみですね~!!!!かけるかな!!!!!!

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