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いっしょうけんめい前の記事を流す記事

ちょっと前に某氏に頂いた【扇風機】という短編ネタを消化してるんですが性懲りもなく月蝕番外ですいません私は短編を書かないのか!!!
追記からど~うぞ。クオリティは落書き。多分前後編になります。後半は気が向いたら書きます。。













 近未来的ないかつさを感じる。虚ろに空いた口の中から、連なった刃が、上界へ信号を発している。もしくはその逆。受信機だ。頭上に広漠と横たうあの宇宙から、送られてきた不可解で奇怪な危機的メッセージを、誰に伝えるでもなく受信し続けている。誰が分かるでもない異世界の暗号を、誰に命ぜられるでもなく黙々と読み解いて、誰が知るでもないこの世の未来をひとり諦観し続けるのだ。……そんな妄想、ときめくミソラ少年のめくるめくそんな浪漫世界を、それはただの扇風機だと一蹴した師匠に関しては、ただただ無粋だと言わざるを得ない。
 トウヤが家の片付けに精を出し始めたのはハシリイから帰ってきてのことなのだが、ミソラの頭は既にその近未来家電に埋め尽くされているので、詳しい経緯は割愛する。とにかく二階の物置の大掃除二日目に発掘されたその扇風機に、ミソラより感動は薄いもののトウヤも一応感想を抱いたようだった。
「実家から送られてきたんだよ」
 ココウに来て最初の夏に、そこはこっちより暑いだろうから、って。ココウの夏は確かに暑かったけれど、湿気が少ない分実際のところは快適で、結局夏のうちに物置の奥で眠っていただく運びとなったそうだ。懐かしいな、と感慨もへったくれもなさそうな口調で言って、掘り出した扇風機の奥に積まれている本の選別を再開する。掘り出されたのに虚しく放置された裸のままの扇風機は、放射状に伸びる細い金物の一本一本に、厚く埃を携えていた。それを指で掬い取りながらミソラは問うた。
「この機械があると暑くなくなるんですか?」
「あ?」
 いかにも面倒げな応対が勝手に口から飛び出して、トウヤはちょっとばつの悪そうな顔をする。
「扇風機も知らないのか」
「知らないです」
 記憶を失う前であっても道具の使い方なんかの知識は大抵残っていたものだが、そんな形状のものは本当にピンとこない。やっぱり北方の育ちなのか、とトウヤはひとりごちて、開きかけていた古い本を元の山へ戻した。
「風を起こす機械だ。風があれば多少は涼しく感じるだろう」
「風ですか! この機械で一体どうやって?」
「その内側についている羽が回って風が起こるんだよ」
 なるほど。説明し終えて本の虫に戻り始めた師匠(だから彼の掃除は時間がかかる)を横目に、ミソラはそのハイテク機器を観察する。羽と呼んだが羽と言っていいのだろうか、金物の檻で輪郭を取る機械頭部の内側には、何か平たくて湾曲した板が五枚ほど斜めにくっついていた。これが回って、風が起こる……突如沸き起こったミステリーに、ミソラは何と無く格好つけて意識的に腕を組む。なるほど、さっぱり分からない。
「何故これが回ったら風が起こるのですか?」
「だから、その羽が……」
 若干苛立った声でまた本から顔を上げて、ミソラと扇風機が並んでこちらを見ているのを目に入れる。扇風機と顔を合わせた。暫し口を閉ざしてから、何やら両手を見せて、
「……羽が、こう」指をくっつけて開いた掌を、浅いお椀の形に曲げる。「斜めに曲がってるだろ、それが……風を……こう、前へ……押し……」
  ……黙って聞いているミソラが目を瞬かせていると、怪しい手振りで説明しようとしていたトウヤも黙り始めた。無意識に腕を組んで、そのうちに口元に手をやって本気で考え込み始めた。それも三十秒もすると諦めて、実際に見た方が理解も早かろう、と最もらしいことを言って、また本を山へ戻した。
 扇風機を連れて自室へ戻る。部屋の隅にそれを置いて、尻から伸びるコードの先をコンセント口へ突っ込んだ。見てろ、と一言、スイッチを押し込む。果たして、扇風機は沈黙したままであった。
 二、三回スイッチを押すと、トウヤは黙って扇風機を解体し始めた。お掃除止まっちゃいますし壊れてるならいいですよと一応声は掛けたが、返事もせず工具を持って来てネジを回して、ミソラにはイカした何かにしか見えない基盤部分を露わにする。多分答えられないことに苛立っているのだが、機嫌が悪いのは火を見るよりも明らかだった。ミソラは大人しく檻の部分の埃を取って待っていた。
 扇風機が治ったのは、埃取りに飽きたミソラが一階へ降りてソーダ水を飲み干して、リナと格闘ごっこを始めて三十分ほど経った頃だ。呼ばれて二階へ上がると、異音を立てながら中央部の羽を高速で回転させている扇風機の前で、風に吹かれる師匠は得意げな顔を隠し切れない様子である。
「動いたぞ」
「機械の修理もできるなんて、さすがお師匠様!」だからミソラは褒めてあげた。
「このくらいは、大したことない」
「お師匠様にできないことって、逆にあるんですか?」
「コミュニケーションくらいだな」
 そう言う師匠の伸び気味の髪は人工の風にさわさわとなびいている。さて掃除に戻るか、と晴れやかな表情で立ち上がりかけた男を、興味津々と扇風機を見つめるミソラが引き止めた。
「それで、何故羽が回ると風が起こるのですか?」
 ……異音を掻き鳴らす扇風機と胡座を掻いて対峙しながら、トウヤは今度こそ長考を開始した。ミソラは正直待ちくたびれて、答えもどうでもよくなって、興味もほとんどなくなっていた。けれど扇風機と一緒にせっかく治った師匠の機嫌を損ねてしまったからには、また褒めて立て直さねばなるまい。ごおおおと風に吹かれながら目を細めて眉間に皺を寄せる師匠に、ミソラは精一杯の褒め言葉を絞り出した。
「風に吹かれるお師匠様も素敵ですね!」
「お前はちょっと黙ってろ」


 また階下でリナと格闘ごっこを始めて十分足らず、ぶすっとした面持ちで階段を下ってきた師匠は何やら財布ひとつで出かけていってしまった。二階の部屋へ上がってみると、件の物置掃除はほっぽり出されたままで、自室では扇風機が異音を吐いているままだった。とりあえずと未知の無生物を威嚇するリナを抱いたまま扇風機の前に座ってみる。扇風機の生み出す風は、思っていたより強かった。直視すると目を開けていられないような風。ばさばさと髪がはためいた。なるほどこれは、確かに涼しい……のかもしれない。初秋を迎えた今となっては、うすら寒くも感じるくらいだ。
 風を嫌がって身じろぎしたリナが、ようよう抱いていたミソラの腕の中から抜け出していく。扇風機に駆け寄って、首の部分にかぶりつこうとした。ミソラは思わず体を乗り出して声を上げた。
「あーっもうリナ……」
 ――雷に打たれたような衝撃が、その時、ミソラの全身を駆け巡った。
 目を、見開く。驚いたリナも足を止めてこちらを見ていた。動揺を露わにしばし硬直して、ミソラは自分の唇に手を当て、それから目の前の無生物へと驚愕の眼差しを向けた。今、何が起こったんだ。……何をしたんだ、君は。
 頭の中に突如、一つの仮説が閃いた。いてもたってもいられず、きょとんとしているリナを強引に除けながら、ミソラは四つん這いで扇風機へと寄っていった。
 風が強い。ごうごうと乱れる髪を気にもせず、激しく脈打つ心臓の意のままに、ミソラはその吐き出された風を吸った。脳幹が痺れるような期待の大渦。時めきながら、声を上げた。
「あー」
 ――声が、変わった。
 感激よりも、動揺よりも、目がくらむほどのパニックが走る。自分の物であるはずの声が、誰の物とも知らない、別人の声へと変わったのだ。震えるようなその声色。変声機能。風を起こして涼しくするだけの機械と思われてた近代家電の扇風機に、実はそんな近未来的な機能が、人知れず備わっていたのである。
 リナさえ目を白黒させて、こちらを見る。ミソラは強張った顔つきのままでもう一度扇風機に問いかけた。あー。声が変わる。あーああーああー。声が変わる。あー、みそら、みそら。きゃうきゃううーとリナも鳴く。どっちの声も変わった。珍しく二人の心が同じになって、ミソラとリナは顔を見合わせて、揃って扇風機へと目を向ける。これは……世紀の大発見、だ。







***
後編は気が向いたら
はじめてのあいぱっど執筆作でもありますが、タイピングで打てると言ってもやっぱりスマホ執筆と同じく文が適当になる感はあります
「風に吹かれるお師匠様も素敵ですね!」って書きたかった。それだけです。。。。。

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