>ガマゲロゲVSウルガモスをセリフなしで
ブルブルブルッ! ――両腕のこぶを震わすさまが、そこに並ぶ多くの観衆を戦慄させた。
頭のこぶから粘ついた液体が飛び散って、ぬかるんだ地面を毒々しい色に染めて上げていく。震える観衆たち――オタマロにガマガル、マッギョやチョボマキなんかの、湿原に棲む類のポケモンたち――の間では、その液体がいかにたちの悪いものであるかなんて、生まれたときから心得ているほど有名なことであった。喰らえば最後、手足が痺れ、景色が変色し、耳鳴りと頭痛が脳みそを引き裂いて、五臓六腑が暴れ狂って、目玉をひん剥き、泡を吹いて死んでいく……だからこの、セッカ一横暴なこのガマゲロゲには、決して逆らってはいけないのである。
しかし、とポケモンたちの視線が一点に集まっていく。あそこに突っ立っている人間のボーズ、勇敢にもガマゲロゲに面と向かっているあの子供のトレーナーは、そんなことはこれっぽっちだって知らないだろう。あぁ、あのガキ、あんなふうに自信満々な顔で手の平でボールもてあそんでるけど、数分後には仏様なんだぜ。可哀そうに……。誰もがそんなふうに思って、心の中で手を合わせたりした。
ガマゲロゲはニタリと嫌らしい笑みを向ける。オタマロがひゃっと悲鳴を上げてガマガルの後ろに隠れる。トレーナーは、キッと目の前のポケモンを睨んで、右手にモンスターボールを構えた。
一陣の風が、セッカの大湿原を駆け抜けていく。
刹那、ガマゲロゲの両足が、めり、と湿地にのめり込んだ。
少年がボールを投げる。大蛙の頬がぷっと膨らむ。紅白の球が空を裂く。次の瞬間、鋭く強く放たれたハイドロポンプは、真っ直ぐにボールへと突き刺さり、
――目を焼くような一閃。強烈な衝撃波が駆け抜ける。続く轟音と突風に乗って、大湿原を真っ白な煙の波が埋め尽くしていく。
白い闇の中でガマゲロゲは顔を顰めた。……息苦しい。空気がべったりと体中に纏わり付き、いつの間にやら全身が濡れそぼっている。白煙は水蒸気の海、まるで水の中にいるかのようだ――だが、とガマゲロゲは口の端を上げる。ガマゲロゲの特性は『すいすい』。雨のフィールドが得意な彼にとって、この状況は
キラッ☆ ピカッ! ドドドド……ッ! その時、頭上には超巨大な火の玉が! ガマゲロゲ含む一同は目を点にするしかなかった。白い靄の向こうには、まるで太陽のように猛々しく燃え盛る巨大生物の姿が――紅蓮の粒子を撒き散らしながら静かに振り返ったのは、六翼の大天使・たいようポケモンウルガモス。
おぉ、神よ! 舞い降りた奇跡の存在に、観衆たちが打ち震えている。その圧倒的な存在感、超越感の前では、あの傲慢なガマゲロゲさえ、ただただひれ伏すしかなかったのである。焼けた地面に手をつき、膝をつく――その充血した瞳から、ぽとり、と液体が零れ落ちた。それは同胞をも殺す憎悪の毒薬ではなく、美しい感動の涙であった。
ウルガモスはその翅に炎の粒を纏い、ゆっくりと舞い始める。夕焼けよりもなお赤く、天空が炎の色に埋め尽くされていく。目を見張る絶景に、誰もが言葉を失った。いや、言葉を発することなど、到底不可能であった――最強のウルガモスの『ほのおのまい』はこれでもかというほど空気を熱し、ポケモンたちの喉を焼き、えらを焼き、木を焼き森を焼き、大湿原の何もかも全てを干上がらせてしまったのだから。
めらめらと何かが燃える音以外にはなにも聞こえなくなった空間で、人間らしき声が高く高く笑うのが、どこまでも響き渡っていく。
少年とウルガモスの去った後、セッカの大湿原があった場所には、黒くひび割れた大地と、無数の焼け焦げた“なにか”が、虚しく残されていた。
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途中で飽きちゃいましたごめんなさいorz