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9-6更新しました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!またあとで話します 明日か明後日に話します
今日は4月1日ですね!!!ということで、今回はなんと!ブログ先行公開!毎年恒例!まさかの!すごい!とくべつな!せかいにひとつだけの!
劇 場 版 月 蝕
をお届けしたいと思います!!!追記からどうぞ!!!!!!!!!!!!
劇場版月蝕
その名も
『グレン五歳の冒険』
今日は4月1日ですね!!!ということで、今回はなんと!ブログ先行公開!毎年恒例!まさかの!すごい!とくべつな!せかいにひとつだけの!
劇 場 版 月 蝕
をお届けしたいと思います!!!追記からどうぞ!!!!!!!!!!!!
劇場版月蝕
その名も
『グレン五歳の冒険』
1
冷静になって聞いて欲しいのだが、おれは今、主を背中に乗せて歩いている。
そもそもである。ココウという町は治安が悪い。見知らぬ人と積極的に関わろうという人間などまずいない。おれの主もヒトにしてはずば抜けた大柄で目立つ容姿をしており、社交性にも長けた部類であるが、知人以外から声を掛けられることはこの町では殆んど無い。ところがどうだ。本日のココウ中央商店街、おれが主を乗せて闊歩するいつもどおりの大通りで、多くの見知らぬ人が我々に視線をくれるのである。そして笑顔になるのである。「あら、かわいい」「乗せてもらっていいわねえ」「どこの子だ?」そう、普段の我々なら絶対に掛けられるはずのない類の言葉を、次々に放たれている訳なのである。
何故なのかというと、おれがヘルガーだからなのである。
ヘルガーという種族に、『かわいい』という形容詞はそぐわない。一般的にはそうだろう。つまるところ、『かわいい』という言葉は、おれではなく、おれが背中に乗せている主に向けられたものと考えるのが妥当だ。
もう一度、冷静になって聞いて欲しいのだが、ヘルガーであるところのこのおれは今、主を、背中に、乗せている。乗せて歩いている。
それはもう、それはもう、微笑ましい光景なのである。そりゃあそうだろう。だっておれの背中に乗っている『主』は、四つか五つかというくらいの、幼気なヒトの子だ。乗せて歩くには少し重いが、腰を痛める程でもない。そもそもヘルガーの背中に、齢二十五の大男など、乗せられるはずもないではないか。
ちなみにココウにヘルガーは二匹といない。ヘルガーを連れている住人も、二人といない。
「おおっ、――町が、でっかくみえる! こりゃすごいぞ、ヘルガーッ!」
零れ落ちんばかりの大きな瞳をきらきらさせて、地に着かない足をぶらんぶらんと振り回す。悪目立ちする舌足らずな声だ。普段着のシャツを大きすぎるワンピースにしている、背中を温める、おれの主。
ああ、この先が思いやられる。溜め息をつきそうになる。主がなんであろうと、たとえどんな姿であろうとおれはボールに囚われた従者、敬愛すべき主のことを、無下にする気など更々湧かぬが。こればっかりは呆れさせてくれ。おいおいさっきまでの動揺はどこへ消えた? 有り余る適応力もいいが、今回ばかりは反省して欲しい。
話は昨日の夕刻へと遡る。
――グレン五歳の冒険
「技マシンTS-2。珍品だな。『デヴォリューター』だ」
主が差しだした小箱を手にしながら、感心したようにトウヤは述べた。
現場は『酒処友恵』、主の友人であるトウヤというトレーナーが巣にしている大衆酒場だ。遠征先で偶然入手した代物なのだが、それを主が真っ先に此処へ持参したのは、気軽に落ち合える知人の中では彼が最もこういうものに詳しいからだ。主が全く見覚えのなかった品番を一瞥し、トウヤは期待通り、すぐに回答を示した。
話題の中心は、ヒトの手で掴める大きさの灰色の機械である。機械の真ん中に伸縮性の緩衝材が挟んであり、それを引き伸ばし両脇のアンテナをポケモンに触れさせることで、マシンが発動し、ものの数十秒で技を教え込ませる。この型の物は今では旧式と呼ばれている。所々に錆が浮く古めかしい見た目だが、どうやらまだ動くらしい。
カウンター席の方で飯を食らっている子供と店主のハギさん、それから彼らの手持ちであるポケモン達が、皆興味深々と此方を眺めている。突然の来客にも問答無用で差し出された生ビールを傾けながら、主はきょとんと目を丸めた。
「でぼ、何? 聞いたことないな」
「デヴォリューター。技、と言っていいのかは疑問だが。進化済みのポケモンを一段階『退化』させる、かなり特殊な技だ」
なかなかにとんでもないことを、トウヤはさらりと言ってのけた。
「退化!?」
主は目を見開いて身を乗り出した。こっちのほうが正しいリアクションだ。ポケモンの退化などと言う事象は、二十年あまり生きてきたおれでも一度も聞いたことがない。ただ、――その主の目玉が異様な輝きを放った時点で、足元に伏せているおれも、まあ嫌な予感はしていたのである。
「んなモンがあるのか!」
「違法な技マシンだぞ。確かカントーの……ナントカってマフィアが開発して、裏で流通してたが、すぐに規制されて廃番になったはずだ。未使用品なんて相当貴重だな」
良い金になるんじゃないか? 話を切り上げるような相手の返答に、いやいやと主は食い下がる。話の流れが読めたのか、向こうでメスのノクタスがげんなりとした目をしている。あれはハリという識別名のトウヤの従者だ。
ポケモンフードを口へと持ちあげながら、ハリはこちらへ鬱憤を向けた。
「早く帰れと言え、サム」
『サム』と言うのはおれの識別名だ。おれの主は手持ちに識別名を付けない主義だが、同胞の間では種族名で呼ばれるのも余所余所しく、野良時代の、群れでの呼び名を今も名乗っている。
「いかにも面倒なことになりそうだ」
「おれも面倒なことになる前に帰りたいんだが、お前の主がわざわざ教えるから」
「トウヤのせいにするな」
「興味あるだろ、トウヤも! 使ってみよう、な? 誰か退化させたいポケモンはいないのか」
ほら、やっぱり。相棒がウンザリしていることにいい加減気付いて欲しい。強さへの希求に熱心で一途な主のことは尊敬しているが、目新しいものに飛びついてはトラブルを起こす幼子の頃からの性質だけは、いい加減なんとかならないものか。
流石と言うか、長年の付き合いだけあり、トウヤはあしらう技術には長けている。対照的な白けた声が返ってきた。
「何故違法になったか考えろ。技の効果が不安定で、死亡事故も起きてる」
「でもある程度流通してたってことは、事故も殆んど無かったってことだろ?」
「危険な賭けをしてまで退化させたい奴なんかいないよ」
「それでも面白そうとは思うだろうが」
「興味がないと言えばそりゃ嘘だが、使う気は更々ないな」
「相変わらず保守的だなあ」
つまらなさそうに頬杖を付いた主に、そもそも技マシンってのが好かない、強制的にポケモンを弄ってる感じで、とトウヤは付け加えた。
まともな倫理観の人物に相談を持ちかけた幸運に感謝しなければならない。大人しく諦めて資金繰りに充てるべきだ。内心安堵の息を漏らしたおれを、ハリが鼻で笑い、その隣でメグミという識別名の同胞がふふふと含み笑いをする。あんたも大変だね、と、老ビーダルのヴェルさんが言う。またしても嫌な予感がした。そう、おれの主の無尽蔵な好奇心は、二言三言で諦めのつくような可愛いものではないのである。
「それって人間に使ったらどうなるんですか?」
外野から、ミソラというヒトの子が、首を伸ばしてこちらに問うた。
あ、こら。そんなことを主に言うな。
みるみるうちに輝きを取り戻していく主の瞳を、こっちのほうが諦めに近づいた気持ちで、おれは見上げるしかなかった。ポケモンというのはヒトより力は強いが、ボールに囚われ従わされる身分に甘んじた瞬間に、その意思疎通能力の皆無さで、途端歯痒い位置に立たされる。言っても聞かないどころか、言っても通じやしないのだ。
きらきらした目でどうなんだと問われたトウヤは、全く取り合わない様子で首を傾げている。が、その伏せがちな目にも一瞬好奇の光が疼いたのが、どうにも不味い気がしてならない。
「……さすがに、デヴォリューターを人間に使ったなんて話は……」
「あの、例えばテレポートって人間も移動するじゃないですか。攻撃技ももちろん人間にも効くし、麻痺とか火傷とか毒とかも……もしかしたら、でぼるーたーっていうそれも、人間にも効くのかも」
「若返ってお肌のツヤが取り戻せるなら、おばちゃんも興味あるねえ」
ポケモンに詳しくないハギさんまでもが話に乗り始めた。そりゃあ商売にもなりそうだと主は嬉しげに手を叩く。雲行きが怪しい。なるか、アホ。思わず呟いたおれの声を主は拾ったようだった。足元に控えるおれへ視線を向けて、満面の笑顔で言った。
「まあ人間にはさすがに冗談だが、試してみる価値はあるよなあ、ヘルガー」
言葉が通じなさすぎてジト目で見上げるしかできない。
「ヘルガーに使うのか? 勝機だなこれは。いくらグレンの一番手でも進化前なら難なく潰せる」
トウヤが上手く煽ってくれた。いいぞ、もっと言え!
「あっそれは癪だなあ」
でも昔懐かしいワンコロの姿も、たまには拝みたいよなあ。にんまりご満悦の主から目を逸らして床に伏せ、冗談じゃないのポーズを取ってみる。またハリのせせら笑いが聞こえた。他人事とはいいご身分だ。
「暴発してお前が餓鬼になったら個人的には面白いけどな」
ビールを喉へ通してから、何の気なしにトウヤが言う。
それをおれも何の気なしに聞いて、出会った頃の主の姿をふわふわと思い起こしていたが。
まさかこの言葉が、フラグになるとは思わなかった。
*
――寝巻の襟ぐりから肩まですっぽり出している昔懐かしい主を発見したのは、その翌朝の事である。
2
「言っとくけど、言っとくけどねサム、ねえサム! サムってば!! 聞いてよ!!」
おれと主の頭上で躍り狂っているリグレーが何かを言っている。苛立つおれが歩調を早めると、主が――小さい主が俺の首にしがみついて、キャッキャと喜ぶ。リグレーがますますキーキーと叫び、道行く人からのにこやかと不可解両方の視線が突き刺さる。
主はおれたちを野放しにして就寝しない。必ず全員ボールに収める。それは既に習慣になっているので、飯などで放たれていたとしても、主が風呂に入る頃には自らボールの中へ戻るのだ。さてその後、ボールの中にきちんと全員戻っているか、主は確認しない。そもそもボールの外側から、中にポケモンが収まっているか、確認することは出来ない。
朝。夜型のおれが微睡みの中で、いつもより早い時間にボールから出された、あの瞬間。
いつも首が通してある穴から肘あたりまでまるごと出して、上はつんつるてんの全裸で、下着も脱ぎ捨てて(ぶかぶか過ぎて勝手に脱げたのだろうが)、まったくもって餓鬼らしくない茫然と腑抜けた表情で、おれを見つめる、ヒトの子を目にした瞬間を。それを見て、『あ、主の昔の姿だ』とすぐに理解したあの瞬間を、おれは一生忘れないだろう。
そして――その主の背中に、怯えきった表情でくっついていた、あのリグレーの顔も。
「言っとくけど、ボクなにもやってないからね!? いややったけど、やったけど悪くはないって言うかボクのせいじゃないって言うか、ほんの出来心っていうか……すぐ戻るのかなって思うじゃん、だって、だってそもそもあるじが覚えさせるからいけないんでしょ!?」
言い訳にも満たない何かをべらべら述べながら念力で宙返りを繰り返しているリグレー、識別名はテラ(以前は別の識別名を名乗っていたのだが、この夏から急にテラを名乗り始めた)。『テレポート』で我々同胞にもボールに戻ったように見せかけて、主が寝静まるまで部屋の死角で待機していたらしい。
溜め息も出る。まったくどうしようもないチビだ。昨晩の飯時からテラは件の技マシンに不自然な執着を見せていた。それに主が応えたことに対して、第一の従者であるおれはもっと主張をしなければならなかったのだ。
『おおリグレー、興味あるか? 俺も色々考えたんだがな、こいつは戦闘中にも役に立ちそうだよな。例えばこんなのはどうだ。俺とヘルガーがバトルをしている最中、相手の背後に、小回りの利くお前がテレポートで忍び寄る。そして相手にでぼ……何だっけ? まあいいや、コイツを、仕掛ける。突然の弱体化に相手が動揺したところに、ヘルガーでとどめを刺す! まあ公式戦ではお縄だろうが、時には負けられない戦いってのもあるもんだ。お前、いっちょ覚えてみるか! がはは』
――そう、全力で止めなければならなかったのだ、あの時に。どうなっても知らんぞ、なんて遠巻きに眺めているだけでは駄目だったのだ。
おれが止めなかった結果として、主はこんなちんちくりんへと『退化』してしまった。おれの責任とまではさすがに思えないが、運命を変えることが出来たとすれば、それはきっとおれだったはずだ。
「だって、ダーリンが面白そうだって言うんだもん!」
なんてこっちは真剣に気に病んでいるのにあまりにも身勝手な主張に、牙を剥いて跳び掛かりそうになる衝動を、主を思って必死に堪える。今おれが跳べば、こんなにも小さくあどけなく、細くて柔らかくてちんちくりんの幼気な主が、頭から石畳に落下してしまう。
「お前にトウヤを喜ばせる義理などもうないだろ」
「へへーん、ボクは今でこそあるじの手持ちだけど、ホントはダーリンの嫁なんだもんね!」
「じゃあもうダーリンのところに行っちまえ、解雇だ解雇」
「そんなのサムが決める事じゃないじゃん!」
「黙らんか小娘が!」
腸が煮えくり返り、思わず口から火が漏れる程叫んだとき――ぐいっ、と頭が後ろに引っ張られた。
「っ!?」
角だ。角を引っ張られている……「へーるがーっ」とおれの首筋ににじり寄った小さな主は、宥めるようにおれの額に顎を乗せた。
「まー怒るな。どうせすぐ元に戻るさ。お陰でお前とお馬さんごっこができた訳だしな」
首を回すと、当の主はけろりと笑っているではないか。
な? と言われると、もう怒る気も無くなる。もっと焦ってもいいだろうに。また溜め息を吐くおれをけらけら笑いながら、主はおれの額にじゃれるように頬を擦り付ける。その感触になんとなく違和感を覚えて、いや、まあこの状況で、違和感を覚えるなという方が無理なのだが。
どんなトラブルが起こっても、どしんと構えて笑っている。誰も責めない。主のそういうところが好きだ。己らを束ねるリーダーとして、彼を誇りに思う。今回の事故で幸運だったのは、主のそういったメンタル面までは子供に帰らず、おれの敬愛する主のままでいてくれたことだ。
「リグレーだって反省してることだしな」
「はーい、反省してまーす!」
「してなかろうが……」
……あ、顎髭が生えてないから、違和感があるのか。
*
とりあえず『酒処友恵』に再び(おれだけ)足を運んできた訳だが、生憎トウヤは留守にしていた。
ミソラもいなかった。ハギさんと、ソーダ水に口を付けている小汚い少年だけが居た。くりくりした大きな黒目が印象的なヒトの子の名は、タケヒロと言ったか。確かポッポを何匹か連れていたはずだが、今はボールの中のようだ。
「誰だ?」
おれの背中から降り、呼び鈴を響かせながら「うんしょ」と戸を押し開けた主の姿に、タケヒロは当然の疑問を投げかけた。ここは酒場だ。よくて五歳ほどの今の主の風貌は、どう足掻いても客には見えない。
「よお坊主、俺だ、グレンだ」
いつものように片手を上げて笑いながら、いつもより数トーン高い愛らしい声で主は言った。
言わずもがな、タケヒロはきょとんとしている。勿論ハギさんもきょとんとしている。そしてあろうことか、主もきょとんとしていた。まさか伝わらないとは思わなかったらしい。よく考えれば、主は自分が小さくなっていることは視線の高さや手足の長さで気付いたろうが、鏡はまだ見ていないのだ。
おれが主と出会ったのは、主が丁度五歳の時だ。主がこういう顔だったことを、おれは知っている。面影も、ないとは言わない。だが、この町でも随一の大男が急にここまで縮んでしまえば、まさか同一人物とは誰も思うはずがない。
「……?」
ハギさんは目を瞬かせ続けているし、タケヒロは訝るように眉間に皺を寄せている。ええっと、と珍しい困惑を浮かべて、主は頬を掻いた。
「グレンだ、グレン。見ての通り、昨日の『でぼナントカ』でちっこくなっちまって……トウヤはどこだ?」
しーん。営業前の酒場に沈黙が走る。
大量の疑問符が浮かんでいる。三人分の。何故話が通じていないのか、主にはまるで分かっていないらしい。困ったようにこちらを見てくる。昨日の話を知らないタケヒロはともかく、ハギさんにまで伝わらないものだろうか。いや、冗談で若返りなどと言ってはいても、そんな現象をいざ目の前にして素早く順応できるはずないか。ハギさんはトレーナーでもなく、おれ達のように色々な場所を旅し、ポケモンが使う様々な技を目撃してきた訳でもない。理解できなくて当然だろう。
奥からぼてぼてと歩き出てきたふくよかな尻尾が、ぶわりと膨らんだ。驚いて毛が逆立っている。黒目も広がっている。老体を驚かせて申し訳ない。
「サム、まさかとは思うけど……昨日言ってた奴かい、それ」
「そのまさかですよ、ヴェルさん」
ヴェルさんの全身が更にぶわぶわと膨らむ横で、タケヒロがピンと思いついた顔をする。
「あ、グレンの親戚とかか? ソーダ飲む? おやつ食べる?」
「本人だって言っとろうが」
「アッハハ、お前面白いな。じゃー隠し子? まさかなあ。おばちゃん、こいつ知り合い?」
「いや……随分大きな服を着てるねえ、この子」
大きな服と言うが、これでも主が持っている中では最も小さいTシャツをワンピースにしているのだ。それにしても『グレン本人』という可能性を完全に排除するタケヒロの口ぶりは、礼を欠くのではないか。人のいう事をまるで信じないとは。
おれが内心で怒っていると、隣の主が、小さな手をぎゅうと結んだ。ふと顔を見上げる。口を引き結んでいる。だんだんと顔が赤らんでいる。……ん? どうした、様子がおかしい。おや、もう十年以上見慣れないこの顔は、まさか。
「服? ……アレこれ、確かグレンが着てた奴……」
「――わあ、かわいい!」
背後から声がした。揃って振り向く。そこには色素の薄いヒトの子と、左腕の皮膚色が違う男が立っている。ああ、トウヤとミソラが帰ってきた。彼らなら話も分かろう。救世主現る。助かった!
「タケヒロ、おばさん、ただいま戻りました。えっと、『ぼく』、こんにちはー。どこの子ですか?」
「グレンだ、俺だ」
「へ? グレンさん……?」
「テラじゃないか、どうしてこんなところに」
入口で立ち止まっているミソラと主をよけて家に踏み入ったトウヤが、纏わりついてくるリグレーの姿に思い当たる。それからこちらへ目をおろして、ヘルガーまで、と。それから主へと目を向ける。小さな、拳をぎゅうと握りしめ、唇をへの字に曲げて、既に真っ赤になった顔でじっと男を見据える主へ、ついに目を向ける。気付け。気付け。五歳の頃は知らないと言え、それでもトウヤは昔馴染みだ。さすがに気付いたろ。頼む。……数拍、固まって『子供』を見下ろしたあと、トウヤは再びおれへ顔を合わせた。
「……グレンはどうした? 何かあったのか、わざわざポケモンだけでうちになんて」
「ま、まって俺が――」「トウヤ、あんたまた子供を連れて帰ってきたのかい?」
主の言葉が遮られる。トウヤは無情にもハギさんへ顔を戻す。
「知りませんよこんな子。僕じゃない」
「じゃー誰なんだよこいつ、あっ、まさか捨て子か?」
「でもなんでさっきからグレンさんのこと……はっ、もしかして!」
ミソラがやっと閃いて、トウヤを見上げた。でかしたぞミソラ。
「グレンさん、まさか悪い人に連れ去られちゃったんじゃ……!」
「――違う!」
思わずおれが叫んだ。だありん、と囁きながら首元に纏わりついているテラはもうアテにならない。これ以上主を侮辱されてたまるか。突然のおれの吼え声に視線が集まり、ミソラが駆け寄ってくる。主を無視して、おれの前へとしゃがみこむ。
「ヘルガー、それで助けを求めてうちにきたんでしょ? そうでしょ?」
マジか。そりゃまずいな。心配だね。人間どもが口を揃えて説を支持した。どうしたら伝わる、何故伝わらないんだ、遊ばれてるのか、こん畜生め。ぶんぶんと首を横に振った。そして口を開いた瞬間に、隣から、声が漏れた。
「おれが」
小さな小さな、震えた声だった。
ぎょっとした。目を見開いて隣を見た。オクタンみたいに真っ赤になった主の顔が、ぶるぶる震えている。小さな唇がひらく。かわいらしい小さな歯が並んでいる。おれが。上擦ってひっくり返った声。
え、嘘だろ。そう思う間に、歪んだ目元から、ぽろぽろと涙が零れはじめた。
「お、おっ、おれが、おれがぐれ、ぐれんだって、いってるらろ! いってるのに、だからあ昨日わざマシンでってえ、ひっ、ぐっ、なんれとう、や、おまっひぅっ、だれもしんじれ、ぐすっ、ふっ……ふっうわあああぁぁん……!!」
そして大声で泣きはじめた。
泣きはじめた。
……泣き、はじめた。おれの主が。
前言撤回。メンタル面まで子供に帰ってる、当たり前だが、こんなことで主は泣かない。火がついたように泣き喚いてミソラにあやされている主の姿に、おれも動揺を禁じ得なかった。
えええええ、嘘だろ。嘘だと言ってくれ……。
3
「つまり、だからえっと……どういうことだ?」
この場の誰よりも高くて愛嬌のある舌足らずな声で主が言った。
出された高級志向の炎タイプ用ポケモンフードも、今や喉を通る気がしない。隣でバクバクとどでかい口で喰らいフードの破片を撒き散らしまくっているガバイトが、「サムも大変だねえ!」と呑気な声で問いかけてくる。ハリといい、このハヤテというガバイトといい、トウヤの従者たちは何故こうも他人事で馬鹿にしてくるのか。貴様らの主人がデヴォリューターの存在さえ知らなければ、こうはならなかったというのに。
アズサ、というメスのヒトの家に上がり込んだのは、おれも主も初めてではなかろうか。小奇麗な、悪く言えば殺風景な客間の隅で俺たちは餌を頂戴し、ヒトの子らも地べたに座り込んでいる。二つしかない椅子の片方に、トウヤが主の両脇を抱き上げて座らせた(当たり前のようにそうされている主の姿は正直見るに堪えない)。行儀悪く足をぶらぶらさせている主は、アズサから受けた説明をまるごと聞き返したところだ。
「一回じゃ理解できなかった? 脳味噌まで縮んでるのかしら」
「子供なんだからもっと優しい言葉で説明してやれよ」
「それもそうよね、ごめんね、よしよし」
「お前ら後で覚えとけよ」
普段は主に敬語を使って話している筈のアズサでさえ、主にこの態度である。従者として怒りを覚えないでもないが、彼女はポケモンレンジャーという職を持っており、なんでもレンジャーの本部、レンジャーユニオンには世界中のポケモンにまつわる事象を集めたデータベースがあるらしいらしい。トウヤでどうにもならない以上、頼れるものには藁でも縋りたい現状だ。快くユニオンの知人に電話連絡を取ってくれた彼女の恩に仇で返すことはできない。
「まあ平たく言えば、放っておけば元に戻れる、ってこと」
主のまるい頭を撫で、続いてほっぺたマシュマロみたいと主の頬をつつきながら彼女は言う。
「そうなのか!」
「技が完成されてなかったのよね。中でもこの型番って製造が結構古いのデヴォリューターで、同じ型番の報告だと例え『経験値』を積まなくても、進化石を使わなくても、時間が経てば元に戻っちゃうんだって」
朗報に顔を綻ばせる、おれと主。よかったな、と微妙につまらなさそうな声で、隣のハリが言ってくる。よかったどころの騒ぎではない。もし主がずっとこのままの状態ならば、とてもじゃないが今までの生活は成り立たないだろう。おれやテラ以外にも主にはたくさんの従者がおり、それらを統べる者として主が君臨しないなら、『群れ』としての我々は完全に崩壊状態に陥る。
ぷにぷにぷに、頬をつついたり引っ張ったりされている主がなんとなく満更でもなさそうなのが、ちょっと癪に障るのは俺だけではないはずだ。こっちは真剣に心配しているのだから子供生活をエンジョイしないで欲しい。
「勝手に元に戻る、ってのは、どういう仕組みなんだ? 一旦どうにかしてリセットされた進化系統の遺伝子発現がまた勝手に起こるってことなのか」
まだ納得していない様子のトウヤが言う。いでん……? 主が首を傾げる。
「えーと、デヴォリューターってそもそも、遺伝子自体をどうこうするんじゃなく、錯覚させるシステムっていうか」
「その効果が一時的にしかないってことか?」
「そうみたいね。ポケモンの進化ってまだ分かってない部分が多いからこの技も未知の部分ばかりらしくて、例えば石を用いた進化って進化石から発せられる放射線が」
「おいおい、やめろって」
よく分からない話を始めた男女に、地べたのタケヒロが口を挟んだ。
「あんまり難しい話したら、グレンまた泣くぞ?」
「黙れ、小僧が」
「だれが小僧だってぇー?」
小さいヒトの子が立ちあがって、更に小さくなった主を偉げに見下している。もっと小さいヒトの子がケラケラ笑っている、また主が顰め面をして頬が赤みを帯び始める、おいおいおい。よしてくれ、これ以上恥を晒したら、従者としてたまったもんじゃない。おれが腰を上げかけたところで、腕を組んで何か考えていたトウヤが顔を上げた。
「ポケモンの進化と全く同じシステムでは、ヒトの成長は語れないと思うが」
主も、ヒトの子たちも、不甲斐ないながらおれも、発言の意味がよく分からなかった。だが事を理解している筈のアズサだけが、あ……と呟いて動きを止めた。
「確かに……」
「じゃあなんでグレンは小さくなったんだ……?」
「……」
「……」
「……え、お、おい、黙るな、怖いだろうが」
立ちこめはじめた暗雲を払うように主が身を乗り出した。おれの主はヒトの中でも表情が大きく変わりやすい方だと思うが、子供になると尚更だ。顔にも声にも、不安の色がありありと浮かんでいる。
「よく分からんが、ほっとけば戻るんだろ?」
「……第一、人間にデヴォリューター撃っただなんてアホな事例、この世に存在しないらしいから……」
「アホ言うな」
「まあ、大丈夫なんじゃない? ……多分」
多分、ね。念を押すように最後を繰り返した。憐れなものを見る視線が、四方から主に突き刺さった。唇をかみしめ顔を歪める主。
「……うっ……ふぅっ……」おい、マジか。
「泣くな、大丈夫だって! な?」軽い調子で適当なことを言う声と、
「グレンさん泣かないでください、高い高いしましょうか?」逆に辛辣な声が飛ぶ。
「うるさっ……ふざけ……ぐずっ……ふぇっ……」
「……そうだ、進化しないポケモンに撃った例はないのか?」
「あ、なるほど」
手を打ち、すぐさま踵を返して黒電話を手に取ったアズサが、慣れた手つきでダイヤルを回す。
「……もしもし、ユキ? さっきのアホな話の続きなんだけど」
「だからアホって言うなぁ」
……泣きっ面でそんなことを言われても、アホな話以外の何物でもないのだが。柔らかそうな目元をやわらかそうな手でごしごしと拭い始めた主人を見、今日何度目かと言う大きな溜め息をついたおれの横で、ハリがぼそりと呟いた。
「本当にデヴォリューターの影響なのだろうか」
また懸案を増やそうと言うのか。嫌な空気を察しながら、おれは顔を向ける。
「と、言うと?」
「例えば、時間を支配したり、過去と未来を行き来したりする能力を持つ同胞も、この世には存在する」
「そんな能力、たかが獣如きにあるものか」
「ある。伝説と呼ばれるような同胞の中にはそういうものもいる。……と、メグミが言っていた」
おれもハリも同時にオニドリルに目を向けた。オニドリルは身体に首を縮こませた。
なるほど、可能性は捨てきれない。摩訶不思議な力を持つ同胞も、中には存在するのだ。その『伝説と呼ばれるような同胞』にまったくもって心当たりはないものの、恨みを買われるような悪事は、主も全国津々浦々で働いてきているのである。……狙われている、誰かに、おれの主が。その可能性を思うと、大人しく座ってなどいられないような衝動に駆られる。守らなければ。今の主人は、自分で自分の身を守れるような姿ではないのだ。
その時であった。
「やめなちゃいよ!」
ニドリーナのリナという同胞が叫んだ。
「あたちの餌をとるなんて、サイテー! ゆるせない! ハヤテなんか、きらい!!」
こんな時に何を痴話喧嘩しているのだ。そう思いながら振り返ると、
「……ああ、あ、ああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!!!!!」
と呻きながら、突然ハヤテが巨大化を始めた。
……えっ、まってまって、何? 何この雑な超展開?
「ハ、ハヤテ!?」
「どうした、ハヤテ!」
「ハヤテ――――!!」
「ハ、ヤ、テ! ハ、ヤ、テ!」
面々が口々にその名を呼び、やがて次々とリズムが揃い始め、総出で手を打ちながら名前を呼び続ける間、どんどんハヤテは巨大化を続ける。ハ、ヤ、テ! ハ、ヤ、テ! ハ、ヤ、テ! 鳴りやまぬシュプレヒコール(多分意味が違う)! ――そして舞台セットがドッキリ百連発みたいに四方に倒れて撮影スタジオも破壊された! カンと晴れ渡る空! 舞台は東京! よく分かんないけどスカイツリーとか東京タワーとか超高層マンションとかそういうアレがにょきにょき伸び、みんな空を見上げる! 首を痛める! 田舎者のように! 雄叫びをあげながらハヤテの体躯はみるみるうちに天空を支配する! いかつい! すごーい! ゴジ〇みたーい!!
「なんでこんな急に適当になったんですか?」
「作者は録画したぐる〇イの綾〇剛がU〇Jに行く2時間スペシャルの奴が早く見たくて仕方ないみたいだぜ」
「あ、あれは……!!」
一応状況説明してくれるらしいトウヤが、驚愕の眼差しで従者の慣れの果てを見上げ、
「僕とハヤテが一緒に開発しようとしていた新技……その名も、……! ……、……えーっと」
それから台本へと視線を落とした。
「新ハヤテの超すごい逆鱗~魔の誘惑・春のささやきを添えて~空前絶後の超絶怒涛の神バンドがおくる稀代の名曲ドラゲナイの最終光臨……、略して『シンハヤテ』……!」
「な、なんだってー!」
ドドドドド……と効果音を発しているハヤテ改めシンハヤテの、背鰭が、紫色に輝いている! なんかすごいビームが炸裂する! 東京の街が焼き払われた!
ドカーン!!! ちゅどーん!!!
すごーい! たのしー!
「ハヤテは街を破壊するのが得意なフレンズなんだね!」
「ここは私に任せて!」
いくわよ、無人スズちゃん爆弾! ――アズサがぶん投げたチリーンが、当然のようにシンハヤテに片手で薙ぎ払われた!(ちなみに以前のエイプリルフールの巨大さよなライオンにチリーンが片手でポポポポーンされる回を知っている人は拙作ともう6年以上の付き合いだよ! おめでとう!)
ドカーン!!! ちゅどーん!!!
「スズちゃん――――――ッ!!」
「も、もうだめだ……おしまいだぁ……」
「そんなことない!」
頭を抱えて蹲ったタケヒロの影で、舌足らずの声が叫んだ。
……主……。おれは感涙に咽び泣く。主はちんちくりんでつんつるてんの姿でなお、二十五歳だった頃を彷彿とさせる頼もしい表情を浮かべているではないか! 若干五歳でこの国の危機を救う、おれは英雄と呼ぶに相応しい主の勇姿に駆け寄った!
「共に戦おう、主……!」
「例の作戦を決行するぞ、まずは小回りの効くリグレーがテレポートで背後に忍び込み、デボなんとかをシンハヤテに使う! そして退化したところへヘルガーがとどめを刺す!」
あれ、もしかしておれが犠牲になるだけでは?
「と言う訳で、行け、リグレー!」
「やっと出番きた!」
テレポートでシンハヤテに飛びついた米粒みたいなテラが、『デヴォリューター』を発揮した!
放たれる黒いオーラに包まれたシンハヤテが、スモールライトを浴びたみたいに小さく……ならなかった!
クソでかいフカマルが、雄叫びをあげながら国会議事堂を踏み潰した!
バッキ!!! グシャア!!!
「今だ!!」
「何が!?」
「チャンスだ、行け、ヘルガー!」
しかし悲しいかな、囚われの従者の性。主の期待の篭った輝く眼差しには抗えないのである。
おれは走り出した。主が五歳くらいのときから、もう二十年にもなる付き合いだ。正直、不安はある。いつでもおれと共にいた主が、おれが散った後、どうして生きていくのか。あの小さな体で、東京の荒波に揉まれ耐え忍ぶことが出来るのだろうか……。涙を振り切り、目の前の敵方に集中した。おれが散り、この国、この世界、ひいては未来を守ることは、主の未来を守ることにも繋がるのだ。主の活躍が世界を救うと信じて……! 主の為に、おれは戦う……!
クソでかいフカマルが、足を上げる。おれは炎を吐きながら、その下に飛び込んだ――!!
緊迫の瞬間――ッ!!
次回――!!!!!!!!!
ぷちっ!
ハリ「サm」メグミ「めぐみビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーム!!!!!」
アズサ「きゃああああ!!!!!(めきめきめき」
グレン「な、なぜアズサちゃんが!?」
メグミ「黒幕はその女よ……!」
ゴゴゴゴゴ……!!!(メグミとアズサが対峙している絵面)
ミソラ「次回! 『グレン五歳の冒険~VSシンあずにゃん~』! お楽しみに~!!」
全員「ばいば~~~い!!!!!」
ミソラ「……えっ? 終わりですか? 全然落ちてなくないですか?」
タケヒロ「ついに台本形式になりやがった」
ミソラ「お師匠様ちゃんと説明してください」
トウヤ「えーっと『こんなところまで読んだんですか!? 時間を無駄にしましたね!! アレなんですよ、お察しの通り『グレン五歳の冒険』に関してはエイプリルフール用のネタじゃないんですよ、エイプリルフール用なのは最後の方のシンハヤテのくだりだけなんですよ、グレン五歳の冒険は本編がシリアスになって書くの嫌になった時に続き書くつもりにとってるネタなので気が向いたら続き書きます、ホントなんですよ! オチまでプロット組んでるんですよマジで! 長い上に投げっぱなしすぎてすいません! まあ先行公開ってやつですよ! 先行後悔の間違いかな!! アハハハハ!! ホントすいません! ホントすいません!!』」(台本棒読み)
アズサ「エイプリルフールはエイプリルフールで落とせよって思う」
トウヤ「それな」
タケヒロ「ところで『本編がシリアスになって書くの嫌になった時』って何だ?」
ミソラ「……」
トウヤ「……」
ミソラ「なんでしょうね?」
トウヤ「ちょっとよくわかんないなー」
グレン「お前ら後で覚えとけよ(二回目)」
***
ホントに終わりです マジです すいません
ちなみに『デヴォリューター』っていう技マシンはマジで存在するんですよ ポケモンカードなんですけどね! こんな更新分で名前を出したら逆に失礼なので名前は出しませんがポケカに詳しい某様に色々教えていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。こんな感じで本当にすいません。
9-6更新報告の記事のときに反省しますね いや反省すること特にないな(うつろ
9-6更新報告の記事のときに反省しますね いや反省すること特にないな(うつろ
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いっしょうけんめい前の記事を流す記事
ちょっと前に某氏に頂いた【扇風機】という短編ネタを消化してるんですが性懲りもなく月蝕番外ですいません私は短編を書かないのか!!!
追記からど~うぞ。クオリティは落書き。多分前後編になります。後半は気が向いたら書きます。。
近未来的ないかつさを感じる。虚ろに空いた口の中から、連なった刃が、上界へ信号を発している。もしくはその逆。受信機だ。頭上に広漠と横たうあの宇宙から、送られてきた不可解で奇怪な危機的メッセージを、誰に伝えるでもなく受信し続けている。誰が分かるでもない異世界の暗号を、誰に命ぜられるでもなく黙々と読み解いて、誰が知るでもないこの世の未来をひとり諦観し続けるのだ。……そんな妄想、ときめくミソラ少年のめくるめくそんな浪漫世界を、それはただの扇風機だと一蹴した師匠に関しては、ただただ無粋だと言わざるを得ない。
トウヤが家の片付けに精を出し始めたのはハシリイから帰ってきてのことなのだが、ミソラの頭は既にその近未来家電に埋め尽くされているので、詳しい経緯は割愛する。とにかく二階の物置の大掃除二日目に発掘されたその扇風機に、ミソラより感動は薄いもののトウヤも一応感想を抱いたようだった。
「実家から送られてきたんだよ」
ココウに来て最初の夏に、そこはこっちより暑いだろうから、って。ココウの夏は確かに暑かったけれど、湿気が少ない分実際のところは快適で、結局夏のうちに物置の奥で眠っていただく運びとなったそうだ。懐かしいな、と感慨もへったくれもなさそうな口調で言って、掘り出した扇風機の奥に積まれている本の選別を再開する。掘り出されたのに虚しく放置された裸のままの扇風機は、放射状に伸びる細い金物の一本一本に、厚く埃を携えていた。それを指で掬い取りながらミソラは問うた。
「この機械があると暑くなくなるんですか?」
「あ?」
いかにも面倒げな応対が勝手に口から飛び出して、トウヤはちょっとばつの悪そうな顔をする。
「扇風機も知らないのか」
「知らないです」
記憶を失う前であっても道具の使い方なんかの知識は大抵残っていたものだが、そんな形状のものは本当にピンとこない。やっぱり北方の育ちなのか、とトウヤはひとりごちて、開きかけていた古い本を元の山へ戻した。
「風を起こす機械だ。風があれば多少は涼しく感じるだろう」
「風ですか! この機械で一体どうやって?」
「その内側についている羽が回って風が起こるんだよ」
なるほど。説明し終えて本の虫に戻り始めた師匠(だから彼の掃除は時間がかかる)を横目に、ミソラはそのハイテク機器を観察する。羽と呼んだが羽と言っていいのだろうか、金物の檻で輪郭を取る機械頭部の内側には、何か平たくて湾曲した板が五枚ほど斜めにくっついていた。これが回って、風が起こる……突如沸き起こったミステリーに、ミソラは何と無く格好つけて意識的に腕を組む。なるほど、さっぱり分からない。
「何故これが回ったら風が起こるのですか?」
「だから、その羽が……」
若干苛立った声でまた本から顔を上げて、ミソラと扇風機が並んでこちらを見ているのを目に入れる。扇風機と顔を合わせた。暫し口を閉ざしてから、何やら両手を見せて、
「……羽が、こう」指をくっつけて開いた掌を、浅いお椀の形に曲げる。「斜めに曲がってるだろ、それが……風を……こう、前へ……押し……」
……黙って聞いているミソラが目を瞬かせていると、怪しい手振りで説明しようとしていたトウヤも黙り始めた。無意識に腕を組んで、そのうちに口元に手をやって本気で考え込み始めた。それも三十秒もすると諦めて、実際に見た方が理解も早かろう、と最もらしいことを言って、また本を山へ戻した。
扇風機を連れて自室へ戻る。部屋の隅にそれを置いて、尻から伸びるコードの先をコンセント口へ突っ込んだ。見てろ、と一言、スイッチを押し込む。果たして、扇風機は沈黙したままであった。
二、三回スイッチを押すと、トウヤは黙って扇風機を解体し始めた。お掃除止まっちゃいますし壊れてるならいいですよと一応声は掛けたが、返事もせず工具を持って来てネジを回して、ミソラにはイカした何かにしか見えない基盤部分を露わにする。多分答えられないことに苛立っているのだが、機嫌が悪いのは火を見るよりも明らかだった。ミソラは大人しく檻の部分の埃を取って待っていた。
扇風機が治ったのは、埃取りに飽きたミソラが一階へ降りてソーダ水を飲み干して、リナと格闘ごっこを始めて三十分ほど経った頃だ。呼ばれて二階へ上がると、異音を立てながら中央部の羽を高速で回転させている扇風機の前で、風に吹かれる師匠は得意げな顔を隠し切れない様子である。
「動いたぞ」
「機械の修理もできるなんて、さすがお師匠様!」だからミソラは褒めてあげた。
「このくらいは、大したことない」
「お師匠様にできないことって、逆にあるんですか?」
「コミュニケーションくらいだな」
そう言う師匠の伸び気味の髪は人工の風にさわさわとなびいている。さて掃除に戻るか、と晴れやかな表情で立ち上がりかけた男を、興味津々と扇風機を見つめるミソラが引き止めた。
「それで、何故羽が回ると風が起こるのですか?」
……異音を掻き鳴らす扇風機と胡座を掻いて対峙しながら、トウヤは今度こそ長考を開始した。ミソラは正直待ちくたびれて、答えもどうでもよくなって、興味もほとんどなくなっていた。けれど扇風機と一緒にせっかく治った師匠の機嫌を損ねてしまったからには、また褒めて立て直さねばなるまい。ごおおおと風に吹かれながら目を細めて眉間に皺を寄せる師匠に、ミソラは精一杯の褒め言葉を絞り出した。
「風に吹かれるお師匠様も素敵ですね!」
「お前はちょっと黙ってろ」
また階下でリナと格闘ごっこを始めて十分足らず、ぶすっとした面持ちで階段を下ってきた師匠は何やら財布ひとつで出かけていってしまった。二階の部屋へ上がってみると、件の物置掃除はほっぽり出されたままで、自室では扇風機が異音を吐いているままだった。とりあえずと未知の無生物を威嚇するリナを抱いたまま扇風機の前に座ってみる。扇風機の生み出す風は、思っていたより強かった。直視すると目を開けていられないような風。ばさばさと髪がはためいた。なるほどこれは、確かに涼しい……のかもしれない。初秋を迎えた今となっては、うすら寒くも感じるくらいだ。
風を嫌がって身じろぎしたリナが、ようよう抱いていたミソラの腕の中から抜け出していく。扇風機に駆け寄って、首の部分にかぶりつこうとした。ミソラは思わず体を乗り出して声を上げた。
「あーっもうリナ……」
――雷に打たれたような衝撃が、その時、ミソラの全身を駆け巡った。
目を、見開く。驚いたリナも足を止めてこちらを見ていた。動揺を露わにしばし硬直して、ミソラは自分の唇に手を当て、それから目の前の無生物へと驚愕の眼差しを向けた。今、何が起こったんだ。……何をしたんだ、君は。
頭の中に突如、一つの仮説が閃いた。いてもたってもいられず、きょとんとしているリナを強引に除けながら、ミソラは四つん這いで扇風機へと寄っていった。
風が強い。ごうごうと乱れる髪を気にもせず、激しく脈打つ心臓の意のままに、ミソラはその吐き出された風を吸った。脳幹が痺れるような期待の大渦。時めきながら、声を上げた。
「あー」
――声が、変わった。
感激よりも、動揺よりも、目がくらむほどのパニックが走る。自分の物であるはずの声が、誰の物とも知らない、別人の声へと変わったのだ。震えるようなその声色。変声機能。風を起こして涼しくするだけの機械と思われてた近代家電の扇風機に、実はそんな近未来的な機能が、人知れず備わっていたのである。
リナさえ目を白黒させて、こちらを見る。ミソラは強張った顔つきのままでもう一度扇風機に問いかけた。あー。声が変わる。あーああーああー。声が変わる。あー、みそら、みそら。きゃうきゃううーとリナも鳴く。どっちの声も変わった。珍しく二人の心が同じになって、ミソラとリナは顔を見合わせて、揃って扇風機へと目を向ける。これは……世紀の大発見、だ。
***
後編は気が向いたら
はじめてのあいぱっど執筆作でもありますが、タイピングで打てると言ってもやっぱりスマホ執筆と同じく文が適当になる感はあります
「風に吹かれるお師匠様も素敵ですね!」って書きたかった。それだけです。。。。。
ちょっと前に某氏に頂いた【扇風機】という短編ネタを消化してるんですが性懲りもなく月蝕番外ですいません私は短編を書かないのか!!!
追記からど~うぞ。クオリティは落書き。多分前後編になります。後半は気が向いたら書きます。。
近未来的ないかつさを感じる。虚ろに空いた口の中から、連なった刃が、上界へ信号を発している。もしくはその逆。受信機だ。頭上に広漠と横たうあの宇宙から、送られてきた不可解で奇怪な危機的メッセージを、誰に伝えるでもなく受信し続けている。誰が分かるでもない異世界の暗号を、誰に命ぜられるでもなく黙々と読み解いて、誰が知るでもないこの世の未来をひとり諦観し続けるのだ。……そんな妄想、ときめくミソラ少年のめくるめくそんな浪漫世界を、それはただの扇風機だと一蹴した師匠に関しては、ただただ無粋だと言わざるを得ない。
トウヤが家の片付けに精を出し始めたのはハシリイから帰ってきてのことなのだが、ミソラの頭は既にその近未来家電に埋め尽くされているので、詳しい経緯は割愛する。とにかく二階の物置の大掃除二日目に発掘されたその扇風機に、ミソラより感動は薄いもののトウヤも一応感想を抱いたようだった。
「実家から送られてきたんだよ」
ココウに来て最初の夏に、そこはこっちより暑いだろうから、って。ココウの夏は確かに暑かったけれど、湿気が少ない分実際のところは快適で、結局夏のうちに物置の奥で眠っていただく運びとなったそうだ。懐かしいな、と感慨もへったくれもなさそうな口調で言って、掘り出した扇風機の奥に積まれている本の選別を再開する。掘り出されたのに虚しく放置された裸のままの扇風機は、放射状に伸びる細い金物の一本一本に、厚く埃を携えていた。それを指で掬い取りながらミソラは問うた。
「この機械があると暑くなくなるんですか?」
「あ?」
いかにも面倒げな応対が勝手に口から飛び出して、トウヤはちょっとばつの悪そうな顔をする。
「扇風機も知らないのか」
「知らないです」
記憶を失う前であっても道具の使い方なんかの知識は大抵残っていたものだが、そんな形状のものは本当にピンとこない。やっぱり北方の育ちなのか、とトウヤはひとりごちて、開きかけていた古い本を元の山へ戻した。
「風を起こす機械だ。風があれば多少は涼しく感じるだろう」
「風ですか! この機械で一体どうやって?」
「その内側についている羽が回って風が起こるんだよ」
なるほど。説明し終えて本の虫に戻り始めた師匠(だから彼の掃除は時間がかかる)を横目に、ミソラはそのハイテク機器を観察する。羽と呼んだが羽と言っていいのだろうか、金物の檻で輪郭を取る機械頭部の内側には、何か平たくて湾曲した板が五枚ほど斜めにくっついていた。これが回って、風が起こる……突如沸き起こったミステリーに、ミソラは何と無く格好つけて意識的に腕を組む。なるほど、さっぱり分からない。
「何故これが回ったら風が起こるのですか?」
「だから、その羽が……」
若干苛立った声でまた本から顔を上げて、ミソラと扇風機が並んでこちらを見ているのを目に入れる。扇風機と顔を合わせた。暫し口を閉ざしてから、何やら両手を見せて、
「……羽が、こう」指をくっつけて開いた掌を、浅いお椀の形に曲げる。「斜めに曲がってるだろ、それが……風を……こう、前へ……押し……」
……黙って聞いているミソラが目を瞬かせていると、怪しい手振りで説明しようとしていたトウヤも黙り始めた。無意識に腕を組んで、そのうちに口元に手をやって本気で考え込み始めた。それも三十秒もすると諦めて、実際に見た方が理解も早かろう、と最もらしいことを言って、また本を山へ戻した。
扇風機を連れて自室へ戻る。部屋の隅にそれを置いて、尻から伸びるコードの先をコンセント口へ突っ込んだ。見てろ、と一言、スイッチを押し込む。果たして、扇風機は沈黙したままであった。
二、三回スイッチを押すと、トウヤは黙って扇風機を解体し始めた。お掃除止まっちゃいますし壊れてるならいいですよと一応声は掛けたが、返事もせず工具を持って来てネジを回して、ミソラにはイカした何かにしか見えない基盤部分を露わにする。多分答えられないことに苛立っているのだが、機嫌が悪いのは火を見るよりも明らかだった。ミソラは大人しく檻の部分の埃を取って待っていた。
扇風機が治ったのは、埃取りに飽きたミソラが一階へ降りてソーダ水を飲み干して、リナと格闘ごっこを始めて三十分ほど経った頃だ。呼ばれて二階へ上がると、異音を立てながら中央部の羽を高速で回転させている扇風機の前で、風に吹かれる師匠は得意げな顔を隠し切れない様子である。
「動いたぞ」
「機械の修理もできるなんて、さすがお師匠様!」だからミソラは褒めてあげた。
「このくらいは、大したことない」
「お師匠様にできないことって、逆にあるんですか?」
「コミュニケーションくらいだな」
そう言う師匠の伸び気味の髪は人工の風にさわさわとなびいている。さて掃除に戻るか、と晴れやかな表情で立ち上がりかけた男を、興味津々と扇風機を見つめるミソラが引き止めた。
「それで、何故羽が回ると風が起こるのですか?」
……異音を掻き鳴らす扇風機と胡座を掻いて対峙しながら、トウヤは今度こそ長考を開始した。ミソラは正直待ちくたびれて、答えもどうでもよくなって、興味もほとんどなくなっていた。けれど扇風機と一緒にせっかく治った師匠の機嫌を損ねてしまったからには、また褒めて立て直さねばなるまい。ごおおおと風に吹かれながら目を細めて眉間に皺を寄せる師匠に、ミソラは精一杯の褒め言葉を絞り出した。
「風に吹かれるお師匠様も素敵ですね!」
「お前はちょっと黙ってろ」
また階下でリナと格闘ごっこを始めて十分足らず、ぶすっとした面持ちで階段を下ってきた師匠は何やら財布ひとつで出かけていってしまった。二階の部屋へ上がってみると、件の物置掃除はほっぽり出されたままで、自室では扇風機が異音を吐いているままだった。とりあえずと未知の無生物を威嚇するリナを抱いたまま扇風機の前に座ってみる。扇風機の生み出す風は、思っていたより強かった。直視すると目を開けていられないような風。ばさばさと髪がはためいた。なるほどこれは、確かに涼しい……のかもしれない。初秋を迎えた今となっては、うすら寒くも感じるくらいだ。
風を嫌がって身じろぎしたリナが、ようよう抱いていたミソラの腕の中から抜け出していく。扇風機に駆け寄って、首の部分にかぶりつこうとした。ミソラは思わず体を乗り出して声を上げた。
「あーっもうリナ……」
――雷に打たれたような衝撃が、その時、ミソラの全身を駆け巡った。
目を、見開く。驚いたリナも足を止めてこちらを見ていた。動揺を露わにしばし硬直して、ミソラは自分の唇に手を当て、それから目の前の無生物へと驚愕の眼差しを向けた。今、何が起こったんだ。……何をしたんだ、君は。
頭の中に突如、一つの仮説が閃いた。いてもたってもいられず、きょとんとしているリナを強引に除けながら、ミソラは四つん這いで扇風機へと寄っていった。
風が強い。ごうごうと乱れる髪を気にもせず、激しく脈打つ心臓の意のままに、ミソラはその吐き出された風を吸った。脳幹が痺れるような期待の大渦。時めきながら、声を上げた。
「あー」
――声が、変わった。
感激よりも、動揺よりも、目がくらむほどのパニックが走る。自分の物であるはずの声が、誰の物とも知らない、別人の声へと変わったのだ。震えるようなその声色。変声機能。風を起こして涼しくするだけの機械と思われてた近代家電の扇風機に、実はそんな近未来的な機能が、人知れず備わっていたのである。
リナさえ目を白黒させて、こちらを見る。ミソラは強張った顔つきのままでもう一度扇風機に問いかけた。あー。声が変わる。あーああーああー。声が変わる。あー、みそら、みそら。きゃうきゃううーとリナも鳴く。どっちの声も変わった。珍しく二人の心が同じになって、ミソラとリナは顔を見合わせて、揃って扇風機へと目を向ける。これは……世紀の大発見、だ。
***
後編は気が向いたら
はじめてのあいぱっど執筆作でもありますが、タイピングで打てると言ってもやっぱりスマホ執筆と同じく文が適当になる感はあります
「風に吹かれるお師匠様も素敵ですね!」って書きたかった。それだけです。。。。。
してません
けど追記から七年前番外のつづきです~なにそれって人しかいない気がしますが!
Q.七年前番外とは
A.月蝕5章ハシリイ編の過去話的なやつです
Q.誰が出
A.15歳のトウヤとサボネアのハリとか何も変わってないグレンさん
Q.なぜクオリティ低
A.10割スマホ執筆
Q.なにが面白
A.知らん
思い出していただけましたか?いいえ!
私もどこまでアップしてたのか全然覚えてませんでしたというかここ上げてたんだと思ってました ずっと前に書いたから……でも執筆できてない時期だったのでこのへんが2013年書きおさめだったのかもしれない
~あらすじ~
水陣祭を見にハシリイにやってきたとうや(15)とサボハリは一緒に来てたグレン兄ちゃんに逃げられてしまった末コミュ障極めて森で野宿しようとしたらどうやらツチニンに追い返された模様
6
ハリは危険を予知したのではなく、あの親切なツチニンに、これから何が起こるのかを聞き出していたのだろう。
けれども当時は勿論腑に落ちず、まぁでも多分ツチニンにここは我々のテリトリーだから荒らすでないみたいなことを言われたんだろうな、くらいに思いながら、ハリの先導によって僕は森を抜けてしまった。さて、どうしよう。途方に暮れて空合いを仰げば、もう昼よりも夜の部分が、多めの幅を占めていた。
僕たちが流れ着いたのは、街の北側の一角、噴水のある広々とした公園だった。翌日件の祭りの会場と化す公園内部は、人やらマリルやら出店やらで、それまでの僕の見てきたものとは一番と言える位に混沌としている。そういえばこの街は種族の偏りがやたらと激しい。街中は水鼠の数が圧倒的に多いのだ。誰しも彼しも、こぞってマリルをリードに繋ぎ、飼い主気分を満喫している。
普通の状態で見るならば微笑ましい光景なのだろうし、僕だって微笑ましいと思いたかったのだけれど、けれど結構それどころでもなかった。笑顔と大声を惜しみなく放出する腹立たしいほど陽気な人々の間を、リードなんかに繋がれて無駄にうろちょろするマリルの間を、迷子のように僕は抜けていった。いや、確かに迷子ではあったのだ。でも認められやしない。
数分もしないうちに賑やかさに完全に酔って、鈍い頭痛を堪えながら公園の隅へと退散した。
僕は、グレンを探していたのだ。あの人混みの中で。敢えて苦手な人波に突っ込んでいった自分の愚かさと情けなさに、ほとほと嫌気が差す。あれがいなくては何もできないのか。公園の外れのベンチへとようよう腰掛けて、額を擦る。隣へとハリが飛び上がってきて無表情にこちらを見てきた。僕は心の中でそれに問う。ハリよ。情けないか。これがお前の飼い主だ。
前夜祭なのだろうか、ただ単に浮かれているのか、公園の方から楽しげな音楽が聞こえてくる。それに乗る乱雑な歌声。無機質な電球を晒す出店の明かりと、向こうの木組みの塔のような小高い建物に並べて吊られた穏やかな橙色の提灯が、暮れなずむ雑踏に滲んでいる。
「惨めだな、僕達」
ぼそりと吐いた声には、自分でも引くほど活気がない。ハリはまたこちらを一瞥した。
これからどうするかなんて考える気力も失せつつある僕の前を、マリルがよたよたと横切っていく。僕達のほうをちらりと見て、小馬鹿にするような笑みを浮かべて。元からああいう口なのは知っているけれど、少し傷ついた。
ああ。どうしよう。どうしたらいい。溜め息を堪えようとしたら代わりに欠伸が出た。眠気。いよいよ疲れも出てきた。肉体的にもそうだし、精神的にも十二分に。もういいだろ。馬鹿笑いをして指さしながら、とっとと僕の前に現われろ、性悪男め。いつになったら俺の腰巾着を卒業するんだ、なんて言えばいい……。結局大きな溜め息をついて、またハリに呆れ気味の目を向けられながら、僕は前かがみになって目を閉じた。本当に眠い。意識は急激に泥沼に落ちる。
――途端に引き戻されるに充分な違和感が耳を突くまでには、それから十秒の隙もなかった。
最初は重低音。けれども注意を向ければ交じる甲高さを聞き分けるのは容易である。雑踏の品のない賑わいに紛れて、豊かな倍音を響かせる。テッカニンだ。ココウの周囲でも頻繁に見かけるから、その音をよく知っていた。しかし、何かおかしい。……見れば、今しがた通り過ぎようとしていた小憎たらしい口元のマリルが、酷い形相に成り変わってぴくぴくと耳を揺らしている。探せば、向こうでリードに繋がれているマリルも、その向こうでリードに繋がれているマリルも。もう人間に連れられて泰然と歩いているマリルは一匹もいなかった。引っ張られても動こうとせず、一様に険しい怒りの様相を浮かべて聞き耳を立てている。気づいていないのは人間ばかりだ。
ハリが目を瞬かせながら僕を見る。その顔に連鎖的に蘇るのは、つい先ほどの森の中でのツチニンとの邂逅。黒々とした複眼は、幾百とも数えるくらいに、異様な多さで僕らを捉えていた。――違和感の正体に気付いて、ハリと目を合わせた。そうだ。一匹ではないのだ。ココウとは違う。
つんざくような誰かの悲鳴が轟いてから、その大群が祭り前夜の会場を駆け抜けるまでは、本当に一瞬の出来事だった。
例えるならば、雲か、煙か。物質を携える黒い突風、ぴんと背筋を緊張させて座ったままだった僕らの視界を、左から右へ、猛烈な速度で横切る。何かいると見えただけ遅い方だ。ココウには姿さえ視認できないようなレベルの高い野良もいる。あの時のツチニン達が成り立てた姿なのかもと一瞬考えた。が、そんなことはどうだってよくて、その大群が過ぎていった、その後の惨事が面白かった。
人の多くは咄嗟に伏せていたから被害はないように見えたが、千切れ吹き飛んだ提灯や、煽られ引き倒されたほったての屋台や、地面に液体を撒き散らした宴途中の酒便の類。突風の後、あの煩わしかった賑やかしは完全に夢と化していた。それだけでない。例えようもない奇声が発される。人ではない。マリルだ。
僕とハリとは目を丸めた。マリル達が――その公園に遊んでいた、殆ど全てのマリル達が、その愛らしい口からはちょっと想像もつかない咆哮を発して、空に水砲を打ち上げたのだ。
虚空に向けて放たれ、入り乱れる水鉄砲の応酬。夕暮れの名残日を橙に弾いて細い水柱が幾重にも立つ。何事か。呆然とそれを見ているのは僕とハリだけではなくて、実は、その公園に突っ立っている多くの若者もそうだった。
後から聞いたのだけど、この年は実に二十年ぶりの『当たり年』だったのだそうだ。だからこの『恒例行事』を実際に目にするのは初めてという人も多かった。それどころか、僕とハリは、過ぎし日のハシリイにおけるマリルとテッカニンの抗争なんて何も知らなかったから、ただポカンと目を合わせて――また羽音が来る。背後だ。素早く振り向いた時には目前だった。思わず声を上げた。
黒い群れは仰け反った僕の頭の遥か上をすっ飛んで行く。もっと動体視力が良ければ数を数えられたかもしれないが、群れをなして飛んでいる、それだけ把握するのでいっぱいだった。大群が公園へと侵攻。マリルが絶え間なく打ち上げる水鉄砲の槍の中を、物凄いスピートで、的確に華麗に躱して、またあっという間に公園から去っていく。一匹たりとて撃ち落とされなかった。見事だ。テッカニンの勝ち、なんとなくそう思った。
テッカニンの群れが去ったのは市街地の方向だった。マリルたちはリードを握る人間共を振り払うような勢いでそちらに向かい始める。僕とハリとはベンチに腰掛けたままそれをひとまず見送った。それから、公園で右往左往している人間たちが面白そうでもなかったから、ハリを見下ろす。こちらを見とめるハリの目はいつになく感情を示していた。うきうきしている。そんな感じだ。
「行ってみよう」
問うと、ハリは右手を上げて肯定を示した。
*****
ちょっと長めでした 本編の進行度とリンクしてる!(どっちも更新しなかった言い訳
あんまり書いた時の事覚えてませんがトウヤが眠くなるところで私も眠くなってわけわからなくなってた事は覚えています 眠い眠いって書きすぎてて後で消しました
すっげー文章乱れてて今ちゃっと直したんですが今も眠くてアレなのでまた直しますといって直した試しはあんまりないんですが)^^( 続き書けるかな~本編先かな~なんかでもちょっとアップしてみてもいいなと思ってアップしました このアップが私の執筆意欲をアップさせてくれることを願います
なんか私の中でいちいちサボハリがかわいい あざとい
けど追記から七年前番外のつづきです~なにそれって人しかいない気がしますが!
2→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1309/
3→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1314/
4→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1315/
5→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1326/3→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1314/
4→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1315/
Q.七年前番外とは
A.月蝕5章ハシリイ編の過去話的なやつです
Q.誰が出
A.15歳のトウヤとサボネアのハリとか何も変わってないグレンさん
Q.なぜクオリティ低
A.10割スマホ執筆
Q.なにが面白
A.知らん
思い出していただけましたか?いいえ!
私もどこまでアップしてたのか全然覚えてませんでしたというかここ上げてたんだと思ってました ずっと前に書いたから……でも執筆できてない時期だったのでこのへんが2013年書きおさめだったのかもしれない
~あらすじ~
水陣祭を見にハシリイにやってきたとうや(15)とサボハリは一緒に来てたグレン兄ちゃんに逃げられてしまった末コミュ障極めて森で野宿しようとしたらどうやらツチニンに追い返された模様
6
ハリは危険を予知したのではなく、あの親切なツチニンに、これから何が起こるのかを聞き出していたのだろう。
けれども当時は勿論腑に落ちず、まぁでも多分ツチニンにここは我々のテリトリーだから荒らすでないみたいなことを言われたんだろうな、くらいに思いながら、ハリの先導によって僕は森を抜けてしまった。さて、どうしよう。途方に暮れて空合いを仰げば、もう昼よりも夜の部分が、多めの幅を占めていた。
僕たちが流れ着いたのは、街の北側の一角、噴水のある広々とした公園だった。翌日件の祭りの会場と化す公園内部は、人やらマリルやら出店やらで、それまでの僕の見てきたものとは一番と言える位に混沌としている。そういえばこの街は種族の偏りがやたらと激しい。街中は水鼠の数が圧倒的に多いのだ。誰しも彼しも、こぞってマリルをリードに繋ぎ、飼い主気分を満喫している。
普通の状態で見るならば微笑ましい光景なのだろうし、僕だって微笑ましいと思いたかったのだけれど、けれど結構それどころでもなかった。笑顔と大声を惜しみなく放出する腹立たしいほど陽気な人々の間を、リードなんかに繋がれて無駄にうろちょろするマリルの間を、迷子のように僕は抜けていった。いや、確かに迷子ではあったのだ。でも認められやしない。
数分もしないうちに賑やかさに完全に酔って、鈍い頭痛を堪えながら公園の隅へと退散した。
僕は、グレンを探していたのだ。あの人混みの中で。敢えて苦手な人波に突っ込んでいった自分の愚かさと情けなさに、ほとほと嫌気が差す。あれがいなくては何もできないのか。公園の外れのベンチへとようよう腰掛けて、額を擦る。隣へとハリが飛び上がってきて無表情にこちらを見てきた。僕は心の中でそれに問う。ハリよ。情けないか。これがお前の飼い主だ。
前夜祭なのだろうか、ただ単に浮かれているのか、公園の方から楽しげな音楽が聞こえてくる。それに乗る乱雑な歌声。無機質な電球を晒す出店の明かりと、向こうの木組みの塔のような小高い建物に並べて吊られた穏やかな橙色の提灯が、暮れなずむ雑踏に滲んでいる。
「惨めだな、僕達」
ぼそりと吐いた声には、自分でも引くほど活気がない。ハリはまたこちらを一瞥した。
これからどうするかなんて考える気力も失せつつある僕の前を、マリルがよたよたと横切っていく。僕達のほうをちらりと見て、小馬鹿にするような笑みを浮かべて。元からああいう口なのは知っているけれど、少し傷ついた。
ああ。どうしよう。どうしたらいい。溜め息を堪えようとしたら代わりに欠伸が出た。眠気。いよいよ疲れも出てきた。肉体的にもそうだし、精神的にも十二分に。もういいだろ。馬鹿笑いをして指さしながら、とっとと僕の前に現われろ、性悪男め。いつになったら俺の腰巾着を卒業するんだ、なんて言えばいい……。結局大きな溜め息をついて、またハリに呆れ気味の目を向けられながら、僕は前かがみになって目を閉じた。本当に眠い。意識は急激に泥沼に落ちる。
――途端に引き戻されるに充分な違和感が耳を突くまでには、それから十秒の隙もなかった。
最初は重低音。けれども注意を向ければ交じる甲高さを聞き分けるのは容易である。雑踏の品のない賑わいに紛れて、豊かな倍音を響かせる。テッカニンだ。ココウの周囲でも頻繁に見かけるから、その音をよく知っていた。しかし、何かおかしい。……見れば、今しがた通り過ぎようとしていた小憎たらしい口元のマリルが、酷い形相に成り変わってぴくぴくと耳を揺らしている。探せば、向こうでリードに繋がれているマリルも、その向こうでリードに繋がれているマリルも。もう人間に連れられて泰然と歩いているマリルは一匹もいなかった。引っ張られても動こうとせず、一様に険しい怒りの様相を浮かべて聞き耳を立てている。気づいていないのは人間ばかりだ。
ハリが目を瞬かせながら僕を見る。その顔に連鎖的に蘇るのは、つい先ほどの森の中でのツチニンとの邂逅。黒々とした複眼は、幾百とも数えるくらいに、異様な多さで僕らを捉えていた。――違和感の正体に気付いて、ハリと目を合わせた。そうだ。一匹ではないのだ。ココウとは違う。
つんざくような誰かの悲鳴が轟いてから、その大群が祭り前夜の会場を駆け抜けるまでは、本当に一瞬の出来事だった。
例えるならば、雲か、煙か。物質を携える黒い突風、ぴんと背筋を緊張させて座ったままだった僕らの視界を、左から右へ、猛烈な速度で横切る。何かいると見えただけ遅い方だ。ココウには姿さえ視認できないようなレベルの高い野良もいる。あの時のツチニン達が成り立てた姿なのかもと一瞬考えた。が、そんなことはどうだってよくて、その大群が過ぎていった、その後の惨事が面白かった。
人の多くは咄嗟に伏せていたから被害はないように見えたが、千切れ吹き飛んだ提灯や、煽られ引き倒されたほったての屋台や、地面に液体を撒き散らした宴途中の酒便の類。突風の後、あの煩わしかった賑やかしは完全に夢と化していた。それだけでない。例えようもない奇声が発される。人ではない。マリルだ。
僕とハリとは目を丸めた。マリル達が――その公園に遊んでいた、殆ど全てのマリル達が、その愛らしい口からはちょっと想像もつかない咆哮を発して、空に水砲を打ち上げたのだ。
虚空に向けて放たれ、入り乱れる水鉄砲の応酬。夕暮れの名残日を橙に弾いて細い水柱が幾重にも立つ。何事か。呆然とそれを見ているのは僕とハリだけではなくて、実は、その公園に突っ立っている多くの若者もそうだった。
後から聞いたのだけど、この年は実に二十年ぶりの『当たり年』だったのだそうだ。だからこの『恒例行事』を実際に目にするのは初めてという人も多かった。それどころか、僕とハリは、過ぎし日のハシリイにおけるマリルとテッカニンの抗争なんて何も知らなかったから、ただポカンと目を合わせて――また羽音が来る。背後だ。素早く振り向いた時には目前だった。思わず声を上げた。
黒い群れは仰け反った僕の頭の遥か上をすっ飛んで行く。もっと動体視力が良ければ数を数えられたかもしれないが、群れをなして飛んでいる、それだけ把握するのでいっぱいだった。大群が公園へと侵攻。マリルが絶え間なく打ち上げる水鉄砲の槍の中を、物凄いスピートで、的確に華麗に躱して、またあっという間に公園から去っていく。一匹たりとて撃ち落とされなかった。見事だ。テッカニンの勝ち、なんとなくそう思った。
テッカニンの群れが去ったのは市街地の方向だった。マリルたちはリードを握る人間共を振り払うような勢いでそちらに向かい始める。僕とハリとはベンチに腰掛けたままそれをひとまず見送った。それから、公園で右往左往している人間たちが面白そうでもなかったから、ハリを見下ろす。こちらを見とめるハリの目はいつになく感情を示していた。うきうきしている。そんな感じだ。
「行ってみよう」
問うと、ハリは右手を上げて肯定を示した。
*****
ちょっと長めでした 本編の進行度とリンクしてる!(どっちも更新しなかった言い訳
あんまり書いた時の事覚えてませんがトウヤが眠くなるところで私も眠くなってわけわからなくなってた事は覚えています 眠い眠いって書きすぎてて後で消しました
すっげー文章乱れてて今ちゃっと直したんですが今も眠くてアレなのでまた直しますといって直した試しはあんまりないんですが)^^( 続き書けるかな~本編先かな~なんかでもちょっとアップしてみてもいいなと思ってアップしました このアップが私の執筆意欲をアップさせてくれることを願います
なんか私の中でいちいちサボハリがかわいい あざとい
拍手レス遅くなって本当にすいません!!!
>レイコさん
わぁい四万記念期待あざます(((o(*゜∇゜*)o)))
でも何もしませんって!!!!書いてるじゃないですか!!!!だのに!!!!!!
>ぴかさん
もうすぐ四万ヒットおめありがとうございます(((o(*゜∇゜*)o)))おおっ絵ですか!まじっすか!描いてほしいですと仰っていただけて俄然やる気が出てきましたがイラストあれやこれや立て込んでるのでどうなることやら!!でも頑張ってみますありがとうっ月蝕キャラですかwww検討します!!でも昔のピカチュウの絵はちょっと古すぎて恥ずかしいくらい下手くそなのでご勘弁ください;;ヒィン
ものかきさんすごいですよね!!!我が子ながらハリかわいすぎてたまりません(*´ω`*)ポケノベル様の掲示板に小説も投稿されてる方で、それもまた面白いので是非に是非に……!!
はわわわ月蝕本編どころか七年前の応援までありがとうございます(;ω;)そしてケロ太の雲まで読んでいただけたとはwwwww発売前の世代のポケモン扱うのもどうかとは思うんですが、ケロマツが好きすぎてやってしまいました(*´∇`)愛と妄想でカバー……ッ!!
ハリマロンにされるんですね!キモリ一族が好きとおっしゃっていましたし草ポケがお好きなんでしょうか(*´∇`*)そしてノクタスのハリもかわいいと言って下さって本当にありがとうございます作者冥利に尽きます(ふかぶか
いつも拍手ありがとうございます、とっても励みになりますっ!!!
拍手レス遅くなって本当にすいませんでした!!!!(二回目
ということで忘れ去られし7年前番外のつづきです
追記から~
~忘れてたので前回のあらすじ~
水陣祭を見るためハシリイに観光に来たは良いものの宿がなかったのでグレン兄ちゃんにけしかけられて民家を当たってみたけど見事に玉砕したトウヤ(15)は兄ちゃんと合流することもできずサボネアと街を彷徨っているのですが早くも心が折れそうです
5
******
短い(悪意 いやだってここがキリがいい……から……
でもこれ大分前にかいた奴なんですよなんか更新タイミング失ってただけで もう1更新分は保持してるけど
短く区切って出してるからなのかプロット作ってないからなのか(明らかに後者)どこに向かって書いていけばいいのかよく分からないままだらだら進んでいる7年前番外 なんかイレギュラーすぎて自分の小説じゃないみたいでやや困惑します
サイトにうpするときはしっかり文章手直しして区切りもなくして出したいなあ うpするかどうかもわかんないけど!
>レイコさん
わぁい四万記念期待あざます(((o(*゜∇゜*)o)))
でも何もしませんって!!!!書いてるじゃないですか!!!!だのに!!!!!!
>ぴかさん
もうすぐ四万ヒットおめありがとうございます(((o(*゜∇゜*)o)))おおっ絵ですか!まじっすか!描いてほしいですと仰っていただけて俄然やる気が出てきましたがイラストあれやこれや立て込んでるのでどうなることやら!!でも頑張ってみますありがとうっ月蝕キャラですかwww検討します!!でも昔のピカチュウの絵はちょっと古すぎて恥ずかしいくらい下手くそなのでご勘弁ください;;ヒィン
ものかきさんすごいですよね!!!我が子ながらハリかわいすぎてたまりません(*´ω`*)ポケノベル様の掲示板に小説も投稿されてる方で、それもまた面白いので是非に是非に……!!
はわわわ月蝕本編どころか七年前の応援までありがとうございます(;ω;)そしてケロ太の雲まで読んでいただけたとはwwwww発売前の世代のポケモン扱うのもどうかとは思うんですが、ケロマツが好きすぎてやってしまいました(*´∇`)愛と妄想でカバー……ッ!!
ハリマロンにされるんですね!キモリ一族が好きとおっしゃっていましたし草ポケがお好きなんでしょうか(*´∇`*)そしてノクタスのハリもかわいいと言って下さって本当にありがとうございます作者冥利に尽きます(ふかぶか
いつも拍手ありがとうございます、とっても励みになりますっ!!!
拍手レス遅くなって本当にすいませんでした!!!!(二回目
ということで忘れ去られし7年前番外のつづきです
追記から~
2→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1309/
3→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1314/
4→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1315/
一更新に1000字くらいしか出してないのに普通に一か月ぶりなんですね(微笑み3→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1314/
4→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1315/
~忘れてたので前回のあらすじ~
水陣祭を見るためハシリイに観光に来たは良いものの宿がなかったのでグレン兄ちゃんにけしかけられて民家を当たってみたけど見事に玉砕したトウヤ(15)は兄ちゃんと合流することもできずサボネアと街を彷徨っているのですが早くも心が折れそうです
5
野宿を考えるにしても、町中というのは絶対に避けたい。ココウみたいな物騒な場所に住んでいるとそういう気なんて更々起きなくなる。けれども街の外へ出て、街から離れ、その上で野営できそうな場所を探すというのも、これだけ日が傾いていればかなり無謀な相談だった。行きしにグレンから聞いた話が僕の士気を上げるための嘘でないなら、ハシリイ周辺の砂漠には野良のノクタスが生息している。人を喰らう生き物だ。さすがにそこまで無残な骸は晒したくない。
行き場を失くしかけている僕が向かったのは、街の北方に広がっている、森の緑の方だった。
この森の存在は幸いと思えた。人里に近ければ大型のポケモンはあまり寄ってこないし、人目から逃れられる障害物があれば多少の休息を取ることはできる。一晩くらいの野営の準備もある。自然の敷地を前にすると、ハリに一応警戒を怠らないよう注意して、僕は中へと踏み込んでいった。
その進行を食い止めたのは、突然足元から現れた一匹のツチニンだった。
がばぁっと地面から飛び出したツチニンは、僕らを見止めると、飛び出した体勢のまま動かす、僕らはその無垢な黒目と暫し見つめ合っていた。……歩いている途中から、嫌に気になってはいたのだけれど。木の幹にじっと引っ付いていたり、寄ってはこずとも疑わしい目で僕らの事を睨んだり、そそくさと視界の遠くをよぎっていくポケモンの影が、ツチニンのものであることがあまりにも多い。敵意はないようで、そもそも土の下から目覚めた途端に人間などと遭遇するとは夢にも思わなかったろう、ツチニンはあたふたと僕らの前から立ち去ろうとした。それを食い止めたのは、ぴょこんと背後から飛び出した、僕の勇敢な丸サボテンだった。
僕には聞き取れない声で、ハリとツチニンは、いくらか意思の疎通を図った。
……しばらく待つと、挨拶をするようにひょいっと片方の爪を掲げて、ツチニンはかさかさと去っていった。ひょいっ、とハリも片手を上げて見送る。その仕草が妙に人間らしくて僕は笑ってしまったけれど、見送り終えたハリがこちらを向き、僕の隣を横切り、それから当たり前のように元来た道を歩み始めたことには、疑問符を挙げざるを得なかった。
「ハリ? どうした?」
ハリは一度だけ振り返った。いいからさっさとついてこい、みたいな顔をしていた。
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短い(悪意 いやだってここがキリがいい……から……
でもこれ大分前にかいた奴なんですよなんか更新タイミング失ってただけで もう1更新分は保持してるけど
短く区切って出してるからなのかプロット作ってないからなのか(明らかに後者)どこに向かって書いていけばいいのかよく分からないままだらだら進んでいる7年前番外 なんかイレギュラーすぎて自分の小説じゃないみたいでやや困惑します
サイトにうpするときはしっかり文章手直しして区切りもなくして出したいなあ うpするかどうかもわかんないけど!
北海道に調査旅行に行ってきた時の写真をまとめて記事にしようと思ってるんですがなかなか。
カメラ下手自覚のある私にしては上手に撮れてるような気がするのが結構あるんで載せたい……んですが
それはさておき
どこまで公開したかちょっとわからなくなるくらいのげっしょく番外です
追記から~
******
短い 腹が立つつってからうんにゃらかんにゃらうんにゃらかんにゃら言って結局「尚の事腹が立つ」で〆るとうやくんが割と好きです
このへんが本格的に書けない書けない言い始めた頃の文章になってくるのではないかと思います
カメラ下手自覚のある私にしては上手に撮れてるような気がするのが結構あるんで載せたい……んですが
それはさておき
どこまで公開したかちょっとわからなくなるくらいのげっしょく番外です
追記から~
2→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1309/
3→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1314/
4
3→ http://kogu.blog.shinobi.jp/Entry/1314/
4
跡形もなく消えたのは、どちらかというと、グレンだった。
別れた場所で従順に待っていられたのは、かれこれ二、三時間くらいだったろうか。あれの言っていた意味を正しく認識するに至るまで、サボネアだったハリを傍に出して、僕はひたすら待っていた。こういう家を当たれ、と特徴を教えてくれたのは、つまり、そういう家を自分で探せという事だ。次はあの家に行ってこい、なんて、いちいち教えてくれる訳などなかったのだ。――ぼんやりそういう思考に至りながら見上げた空は、赤らんでいた。気付けば日が傾いている。
こんな街中で、野宿は、ごめんだ。行こう、と落とした自分の声が自分でも驚くくらい低く沈んでいて、見上げたハリの目もきょとんとしていた。
とぼとぼと坂を下っていく。暮れはじめの虚しさを孕んだ風が腹のあたりをじわりと冷やす。時折の鳥の鳴き声よりも、自分の重苦しい足音の方が、嫌に耳についた。
そもそも、別れて宿を探したところで、その後どうやって合流するつもりだったのか。そんなことさえ決めていなかったことに気付くと、あの身勝手で奔放な男の実害の出る適当さに腹が立ったし、同時に「やっぱり合流する気なんてなかったんだ」ということを思い知った。端から僕を試そうとしていたのだ。持ち上げるなら、僕の特性を承知したうえで、克服と成長の機会を与えてくれた、と言うべきか。尚の事腹が立つ。
教えてもらいはしたけれど話半分に聞き流していた『宿にしやすい家の特徴』を思い出せもせず、丘の麓の住宅地の、ぽつぽつと灯り始めた家明かりの中を、サボネアと二人、十五歳の僕はただふらふらと浮浪した。とある家の前で立ち止まっては、野宿、と心に唱えながら勇気を振り絞ってみるも、げっそりとしていたあの子の顔が矢庭に蘇れば、忙しかったら迷惑だしな、とその場を立ち去る、を繰り返す。そんなことをしていると、気持ちが野宿の方に振れるまでは、けっこうあっという間だった。
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短い 腹が立つつってからうんにゃらかんにゃらうんにゃらかんにゃら言って結局「尚の事腹が立つ」で〆るとうやくんが割と好きです
このへんが本格的に書けない書けない言い始めた頃の文章になってくるのではないかと思います
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